世界で認識が広がるジェンダーレス

ジェンダーは、一般的に生物学的な性別だけでなく、男らしさ・女らしさなどを含めた社会・文化的性差を指します。
また、ジェンダーレスとは、男女の区別や性差の境界線をなくそうという考え方のこと。2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)の1つにも「ジェンダー平等を実現しよう」と掲げられています。
日本では、若者を中心に当たり前の考え方として広がりつつあり、「Z世代のジェンダーに関する意識調査」(2021年3月実施、SHIBUYA109 lab.)によると、Z世代のLGBTQ+に対する理解度は親世代の2倍以上あります。徐々にジェンダーレスの視点から、開発される商品も増えてきました。
ジェンダーレスの視点でみた商品のポイントは
- 男女関係なく使いやすい
- ターゲットの変更や拡大
- ターゲットの拡大に合わせてデザインや広告を変更
などが挙げられます。
男女の区別をなくすことで売上アップ
男女ともに使える仕様にし、ジェンダーレス化した事例をご紹介します。
事例①|デザインを共通化し、みんなが着やすい服に
無印良品のアパレルブランドであるMUJI Laboは、2019年以降「性別や年齢、体型に関係なく着用できる服」をコンセプトに商品を販売しています。

従来、服は「男性らしさ」「女性らしさ」が重視されていました。しかし、MUJI Laboでは男女の垣根をなくし、機能性を追求した服作りを開始。その結果、若い世代の購入が増え、顧客層を広げました。

(https://www.muji.com/jp/mujilabo/index.html)
ただ、ジェンダーレス商品に傾倒しすぎると、顧客層が狭まる可能性があります。無印良品でもジェンダーレスに商品のテイストが偏った結果、従来の顧客層が離れ、衣服全体の売り上げが減少しています。
従来の顧客層と新たな顧客層の両方にアプローチすることが大切です。
異性をターゲットに加えたことで売上アップ
女性向け商品のターゲットに男性も加えることで、ジェンダーレス化した事例をご紹介します。
事例②|男性視点を採り入れ、商品を改善
株式会社ナリス化粧品は、2021年5月に薬用フェイスパウダーのコンセプトを「女の子のニキビケア」から「みんなの肌悩みに対応」に変更。その結果、前年比265%の売り上げを達成しました。

女性視点での企画開発ではなく、男性の声を採り入れることで商品を改善。それにより、誰もが手に取りやすい商品となりました。

(https://www.narisup.com/shop/g/g4J73001/)
マスクの着用が日常化した昨今では、肌悩みを抱える男性が増加(参照元:「コロナ禍でのマスク着用と肌に関する調査」、2021年6月実施、第一三共ヘルスケア株式会社)。女性向けスキンケア用品を使用する人も増えています。さらに、メンズメイクに対する需要も高まり、2021年の市場規模は、前年比+9パーセントの406億円にまで拡大。化粧やスキンケアという行為自体のジェンダーレス化が進んでいるのかもしれません。
事例③|デザインやモチーフを変更し、男児でも気軽に人形遊びがしやすく
バンダイは、男児向けのお世話人形として「ホルン」を2019年に発売。お世話人形は従来女児向けに販売されていました。しかし、親世代が、性別にとらわれず子どもの希望するおもちゃを買い与えるようになり始めたことから、人形遊びをする男児が増加(参照元:「子どもに対する「女の子らしさ」「男の子らしさ」意識調査、2022年2月~3月実施、株式会社こどもりびんぐ)。これらの需要を受けて男児向けの商品が販売されました。


主に子育ての分野を専門とするライターの堀越英美さんによると、欧米ではジェンダーに関する偏見をなくすため、多くのおもちゃ売り場から「男の子向け」「女の子向け」の表記が消えたそうです。同時に堀越さんは「日本でも、おもちゃの選択肢が増えることで社会意識が変わるのでは」と分析。ジェンダーフリーおもちゃに触れることで、子どもの男女にかかわる価値観も変化しそうです。
若い世代の6割がジェンダーレス商品に肯定的
このようなジェンダーレス商品は、消費者にどのようなイメージを持たれているのでしょうか。16~79歳の男女2,064名を対象とした「商品に関するジェンダー意識調査」(2022年2月4日~6日実施、CCCマーケティング総研)によると、商品やサービスのジェンダーレス化に前向きな肯定派は全体の3割で、否定派の倍ということが分かりました。年齢別にみると、若い世代ほどジェンダーレスへの肯定派が増えており、10代以下は肯定派が6割を占めます。特に若い世代は、ジェンダーレス商品に好感を持っています。
ただ、ジェンダーレス=性差をなくし、商品を無個性にすればよいというわけではありません。男性側・女性側両方の視点をあえて取り入れ、新たな気づきを生みだすことで、市場を拡大する機会につなげています。
それが、より良い商品づくりを目指すインクルーシブマーケティングのポイントであるといえるでしょう。