ドローン配送インパクト
ドローンの機体に専用のボックスを装着するなどして空輸するドローン配送。「ラストワンマイル」(倉庫から配送宅までの物流における最終工程)において費用削減や時間に縛られない配送ができると、期待されているビジネスです。2013年にアマゾン・ドット・コムが、ドローンを使った商品配送の計画を発表したことを皮切りに、世界各国でその実用化の機運が高まってきています。

「ラストワンマイル」の輸送に、2兆円以上(矢野経済研究所調べ)のコストをかけている日本でも、ドローン配送による人件費や移動の削減が期待されています。しかし、ドローンが街中を飛び回るというのは、市民にとって少し不安なものです。実用化に際して、業界には技術面と管理面の両方で、課題を解決することが求められています。
技術面での主な課題は、目視外飛行や夜間飛行、雨天時での安定飛行など、常に頭上飛行の安全性を担保することです。管理面では、飛行中のドローンが許可を得たものなのか、また他のドローンと衝突する恐れがないか確認し、管理するシステム、通称UTM(ドローン運航の管理システム)の整備、さらには危険な飛行を禁止する法律の制定が必要です。
技術とシステム構築で先行する各国の状況
国際的には、ICAO(航空業界の安全を監督する国際民間航空機関)が、UTMの国際基準の策定を推進していますが、実用化に向けた進捗は国それぞれです。ここからは、国別のドローン配送の現状を、先にあげた課題にどのように対応しているかを含めて追っていきます。
ドローン×AIで物流網を構築する中国
中国ではドローンの飛行技術にAI技術を融合し、全自動の物流システムを開発しているアントワーク社が、医薬品などの配送で、ドローンを活用しています。同社のドローンは、雨天時でも、30キロ以内の距離であれば、最大7kgの重量物を30分以内に配送できるほどの性能を有しています。
中国民用航空局は、アントワークに対し、「特定類無人機試験運行批准書」と「無人機物流配送経営許可」を交付したため、同物流システムはスターバックスやKFCなどに導入されることになりました。
リモートIDで安全を保障するアメリカ
アメリカでは、GAFAなどの民間企業が主体となってドローン配送の実現に向けて動いています。グーグルの関連会社であるWing社は、家庭向け商品のドローン配送を実現。また、アマゾン・ドット・コムもドローン配送サービス「Prime Air」の開始を発表しました。
アメリカのドローン配送の実現に向けた進捗の大きな要因として、リモートIDの導入が挙げられるでしょう。リモートIDは、飛行するドローンが合法的に運用されているかを確認できる画期的な仕組みです。住民は、飛行するドローンの情報ひいてはその安全性を、ドローンの機体から直接、もしくは地上設備からインターネット経由で発信されているリモートIDを読み込むことで確認できます。
リモートIDは、2019年の末にICAOが開催したドローンに関する国際会議「ドローンイネーブル3」で注目を浴び、世界の航空規制機関や運行管理団体で導入が積極検討されています。
国家主体でUTM構築が進む欧州
欧州など、米中以外の各国でも、2国を追いかけるようにドローン配送にむけたUTMの整備が行われています。
例えば、スイスでは、政府と民間の役割を明確化したUTM構想「Swiss U-Space」に基づき、官民合同でUTM整備に着手。また、イタリアでは、政府機関主体が主体となって、あらゆるドローン管制整備が進められています。欧州が、このように国家主体でUTMの整備を行う背景には、ドローンビジネスまでをも米中のユニコーン企業に支配されたくないという意地があるのでしょう。
後を追う日本は、法整備がカギ?
日本も、技術面の課題解決においては、他国に引けを取っていません。例えばANAは、ドローンを用いた離島間の物流実験を行っています。また、日本郵便は、福島県でドローンを活用した郵便局間輸送開始し、楽天は離島配送プロジェクトを開始しています。しかし、問題は、これらの技術を離島間や山村部だけでなく都心で応用するための、管理面での課題解決が進んでいないということです。
まず、法整備。もちろん現行の航空法も、ドローンの飛行時に地方航空局や警察への許可が義務化されており、住民の安全確保という観点では充分なものです。とはいえ、都心部での頻繁なドローン配送を望む上では都合の悪い制度であり、その緩和ないし改正が求められています。
そして、UTM整備。やはり都心部でドローン配送を実現させるには多くのドローンが同時に飛行しても問題ない管理システムが必要です。さらに、自動配送や国家間での配送という未来を描くと、リモートIDの導入は欠かせなくなってくるかもしれません。