事業会社でさまざまな企画職をご経験の方にお話を聞く「Client's View」。『起業の道標』の著者である伊藤一彦さんに3回にわたってお話をお聞きしました。 1回目:これまでのキャリアと現在の仕事観 2回目:新著「起業の道標」のポイント 3回目(今回):パートナー企業に求めること 専業プランナーのみなさん、プランナーを目指す学生さん、多くのマーケターのみなさんの参考になれば幸いです。 【聞き手:株式会社シンクジャム代表|国本智映】
パートナー企業について
我々はマーケティングの会社になるので、マーケティングのお話をさせていただければと思います。御社が内部で解決できないことを、外の会社さまに依頼されてきたこともあったと思います。そのとき、どういった外部の企業に今まで依頼してこられたのかをお聞きできますか?
一番多くはデザイン会社さんですね。Webサイトを作ったり、カタログを作ったり、会社案内を作ったり…。デザイン会社さんにお願いすることがとても多かったです。そのデザイン会社さんはマーケティングもできたので、そこもお願いをするというか、いろんなアイデアをいただくケースは多かったです。
どのような基準でデザイン会社さんを採用されたのですか?
そのデザイン会社さんとは、僕がNECで働いていた時代に出会いました。1998~1999年頃、パワーポイントでしか資料を作っていなかった時代です。そのデザイン会社の社長さんにお願いすると、今まで自分では作ったことがないような、洗練されたデザインの資料が返ってきたのです。

ずっと、NECでB to B専門のアウトソーシングモールを作るという企画を考えていたのですが、どこでできるのだろうか?となったとき、ビッグローブならできそうだとなりました。ただ、ビッグローブに説明しに行くのに、僕が作ったパワーポイントの資料では駄目だと言われていたのです。そこで、デザイン会社さんに資料作成をお願いすることにしました。僕がパワーポイントで作った資料は、当時の上司から1回もOKをもらえませんでしたが、そのデザインが仕上がった資料を見せたら、「いいじゃない。これやってみよう」と言われました。中に書いてある文字は、一語一句一緒ですけど…と思いましたが(笑)。そのとき初めてデザインの大切さを知りました。それからは営業資料作成やWebサイト制作などは、お金がなくてもそのデザイン会社さんにお願いするようにしていました。
そのお付き合いが今も続いているという感じですか?
今も続いてはいますが、ガバナンス上、複数の会社さんを比較検討して使っていくことが上場準備の段階からとても大事なので、他の会社さんにもたくさん依頼させていただくようになりました。
外部の会社さんの採用基準はありますか?
デザインは定性的で、感覚的なものなのですが、そのデザインになった理由をきちんと論理的に説明できるかどうかはとても大事ですよね。あとは、担当者との相性もあります。こっちが依頼したことにプラスアルファで返していただけたりするのは大事だと思います。
失敗したご経験はありますか?
過去には、何度か失敗はあります。とにかくうちの予算とやりたいことを聞いて、「できます、できます」と言って引き受けていただいたのに、実際は全然イメージと違うデザインが出てきたり、何回言ってもクオリティが上がらなかったり…そういった会社さんはやっぱりありました。そういう意味では、パートナー選びはとても大事だと思います。
「こういう会社さんとだったらお付き合いしたい」というものはありますか?
1から10まで言わなくても、1から6~7ぐらいまで言ったら10を分かってくれるような会社さんですね。10まで言わなくても途中で「分かりました」と言っていただいて、かつ、ある程度具体的なアウトプットを返してきてくれる会社さんがいいです。「今、おっしゃっていることはこういうことですね」と整理していただけるといいですね。
ここまでは絶対社内でやるという線引きはありますか?
基本的には、全部社内でも社外でも良いと思っています。新しい事業を成功させるためにオール社外で成功できるのであれば、オール社外でもいいと思っていますし、逆にオール社内で成功できるのであれば、オール社内でもいいと思っています。こだわりは全くないですね。
判断の基準というのは、事業が成功するかどうかということでしょうか?
そうですね。あとはその時の効率性です。社内にノウハウがないことを社内でやったら非効率なので、それは社外でやってもらった方が良いと思います。社内にどんどんノウハウを貯めていくことで今後の仕事が効率的になるなら、社内でやりましょうということになります。たとえば、介護レクリエーションの情報誌を2ヶ月に1回出版していたことがあるのですが、それは撮影も企画も全部社内でやっていました。ノウハウ的に社内でやった方が正直安くつくというか、効率的だと思ったので、社内でやっていました。
今後は「教える」ことをしていきたい
御社の今後の方向性を教えてください。
BCCといううちの社名は、「ビジネス・クリエイティブ・コーポレーション」の頭文字です。社名の通り、どんどん新しいビジネスを作り出していく会社だと思っているので、今は2つしか事業をやってないですが、今後3つ、4つ、5つ、10個、20個と増やしていきたいです。人も、新規事業が生まれる瞬間に一番成長しますし、当然社会的な課題も解決できるので、そういった事業をもっと増やしていきたいです。
それはbizcre(ビズクリ)ですか?
bizcre(※注:bizcreとは、経営戦略の策定・管理をデジタル化したWebアプリのこと)も、その中の1つです。ですが、もっとたくさんビジネスを作っていきたいです。今は僕が起点になることが多いですが、本当は僕が全然知らないところで勝手に新たなビジネスが生まれていくというのが理想的だと思っています。たとえば、当社のIT営業アウトソーシングの事業は、僕が関与することは今ほとんどないです。それでも、おかげさまで勝手に成長してくれています。新規事業でも、そういう状態が同じようにできればいいと思っています。要は、新たなビジネスを勝手に生み出せる会社になっていけばいいと思っています。
1本の幹がどんと太くあるよりは、細いものがいくつか集まって、1本の幹になっている感じが良いです。100億の会社を1個作るなら、10億の会社を10個作りたいと思っています。
個人的に伊藤さんがやりたいと思っていることはありますか?
僕はもともと先生になりたかったので、教えていたいのです。今も東京証券取引所さんからのご依頼で、いろんなベンチャー企業の支援や、企業の成長支援塾というものの講師をやったりするのですが、そういう活動はとても楽しいです。セミナーのご依頼とか、講演のご依頼もよくいただいたり、学生さん向けに、いろいろな大学からゲストスピーカーで呼んでいただいて、お話しさせてもらったりもしますが、それもとても好きです。自分の経験と、中小企業診断士として学んできた知識を整理して、人に伝えていくというのがとても楽しいので、それをもっとやりたいですね。自分のしてきた失敗とか、別にする必要がなかった失敗や苦労もたくさんしてきたので、多くの人に伝えて、転ばぬ先の杖にしていただけたらと思います。みなさんもっとチャレンジしたらいいと思います。僕が伝える知識をお守りにしてもらって、こういうことを考えていたら大きな失敗はしなくなると分かったうえでチャレンジをしてもらえるようになればいいと思いますね。

教える科目が理科から経営に変わっただけかもしれません。僕は経営学と呼びますが、経営学こそ僕は科学的だと思っています。経営学は極めて論理的で、科学的再現性があるものだと思っているので、それを伝えたいです。
経営者こそ、経営学の先生になったらいいと思います。
そうですね。僕は、経営者の方は感覚的に優れた方が結構多いと思っています。でも僕は、考えて、考えて、考えて論理的に答えを出していく方のタイプです。直感的にやってうまくいったことはないです。
チャンスが来たらすぐに掴むとおっしゃっていましたが、それは感覚的なところではないのですか?
掴んだ後、考えます。家庭教師体験も、営業アウトソーシングの会社も今のこの会社も一緒で、チャンスを掴んでから、どうやったらうまくいくかを考えて、いくつかチャレンジしてうまくいった感じです。本当は順番が逆の方が良いとは思いますが。
感覚も論理もどちらも大事ですよね。
そうですね。あと、大事にしたいと思うのは、再現性です。会社がうまくいっているのは、「伊藤さんが特別だからですよね」と言われないようにしたいと思っています。実際僕は特別ではありませんし。何か特別な才能もないです。
諦めずにやり続けるというのは、才能だと思います。
それも大人になってからですね。子どもの頃はびっくりするぐらい3日坊主でした。書道は2日行って辞め、公文式は1日で辞め、水泳なんて入る前に辞めました。親からも、お前は入学金泥棒と言われて…。すごく飽き性で、続かない子でした。
経営の再現性というのは難しそうです。きっと外してはいけないポイントがあるのですよね。
分かりやすいところでいくと、うちは社運をかけるということは絶対にしません。調達できた資金の範囲でしか、勝負しないです。先にお金を借りてから勝負すれば、失敗しても潰れないですから。0にはなっても、マイナスにはならないということです。そうしていると、会社が倒産することは一生ないです。無謀なチャレンジはしない。決められた範囲では、どんどんチャレンジをする。
リスクを予測して、その中でチャレンジしましょうということですね。長時間、ありがとうございました。
