すべてを顧客起点で考える|逸見光次郎さんインタビュー(2)

オムニチャネルとは、「お客様が便利に情報を見て、買い物ができる仕組み」

オムニチャネルの本質とは?

オムニチャネルって言葉自体は、どんなふうにいっても良いと思っています。

セブンネットショッピングを立ち上げた99年当時は、「クリック・アンド・モルタル」って言われてましたが、それが「O2O」になったり、「オムニチャネル」が出てきて、次は「OMO 」だ‥みたいなね。

単純に言うと、お客様が便利に情報を見て、買い物ができたらいいんです。その環境はネットや店舗、もしくはスマホの中と、どこでもいいわけです。でも、もしかしたら業種によってはスマホは難しいかもしれない。スマホに適さない客層はもちろん、商品群として見にくい、選びにくい場合があります。その場合は、スマホの入り口を押したらコールセンターにつながり、すぐ相談できたらいいのではないかと。電話を敬遠するなら、LINEやチャットでやりとりできればいい。

お客様が便利に買い物できれば、流行り言葉はどうでもいいんです。

バズワードより本質を見ろと?

これまで決済が伴うから“売り場”となっていたのですが、今や決済が伴わなくても商品情報の接点だけでも“売り場”になります。そこに人が介在しているのか、ネットなのかの違いがあるだけで、お客様との情報接点は全て売り場になります。SNSも、決済は伴わなくてもいいという概念なら、見方によっては売り場になるわけです。

「この商品欲しいな」と思ったら、そこは売り場ということですね。

はい。オムニチャネルとは、なんとなくチャネルがシームレスにつながっている状態だと思われています。それだけではなく顧客がいつも買ってるお店でコメントしたり、一方で、お店側も店舗の在庫情報や新製品の予約情報をタイムリーに提供したりする「双方向の情報のやりとり」がオムニチャネルなのです。昔は、一方的に企業が発信する情報を消費者が受け取っていたのが、今は消費者も発信する双方向になりました。

「利用者の声」が売り場における重要なコンテンツになった?

そうです。なので、UGC(ユーザー ジェネレイテッド コンテンツ)をどう活用するか、つまりユーザーがつくったコンテンツ、発信したネタをどう活用するかが鍵です。現在、博多にある防音通販会社の役員をしていますが、5億、8億、10億と、この3年ほどで売上が伸びています。その会社でのSNSの活用は今、自ら発信するだけではなく、ユーザーのコンテンツとどうつなげるかを常に意識しています。

防音商品は、いくらスペックを記載しても自らの音の悩みにどう有効なのか分からない。例えば、マンションで階上の足音がうるさいという時、床の構造や通気孔の箇所まで聞き、その上で、1枚ではなく2枚重ねて敷けばデシベルがいくつ下がる効果があるなど、1件1件お悩みを伺っていかなければお客様は納得して購入出来ない。その相談にのるという業務を業務フローのスタートに設定して書き直してみると流れが明確になりました。購入してくれたあと、お客様がソーシャルでつぶやいてくれる。人によっては、使ってるところをYouTubeで映してくれて。

確かにUGCは最強のコンテンツですね。

去年、顧客サポート部隊とソーシャルの発信をする部隊の両方を一つの組織にまとめました。お客様の自社への投稿を見つけたら「ありがとうございました」ととにかくレスを入れることを指示しています。もし、そのお客様の反応が良ければ、投稿をうちの公式サイトからリンクさせてもらえないか尋ねます。企業が「この商品は良い」と言うより、お客様が言ってくださった方が説得力がありますよね。そこに悪い部分があってもいいんです。

悪い口コミは、嫌ではないのですか?

例えば、良く売れている20万円の防音ボックスは、左右で取っ手が替えられる商品でしたが、その説明がサイトにはなかった。組み立てて使っているお客様が性能の良さに満足してくれているのですが、左右で扉を変えられるということを最初から分かっていたらもっとよかったと動画の中で言ってくださっているのです。その動画も採用させていただきました。もちろんサイトでの表記もあらためました。悪いこともどんどん上げてもらい、逆に感謝すること、そして改善すること。それも顧客エンゲージメントの重要ポイントなのです

前は、マスコミしか発信できなかったものを、一般の人も発信できるようになったのであいまいさやウソはばれてしまう。そのことをいまの50~70代の経営層がきちんと理解しないといけません。デジタルネイティブである必要はないので、あえて仕事だと思って1日30分でもいいから、TikTokをずっと見るとか‥やってみた方がいいですね。お客様の視点に近づけますから。

消費者もUGCを積極的に検索するようになってきました。

日本のインスタ検索の率って、海外に比べて3倍ぐらいあるそうですね。Google検索も悪くはないのですが、リスティングやSEOなど、お金で買われてますもんね。意味がないんじゃないの?って、思ってたんですよね。

これからはマーケや販促もUGCを含めて、顧客とのつながりの全体を考えて顧客接点を設計していくということが大事になってきました。良い例が、ヨドバシさんのエクストリーム便です。自社で売り、配送もする。これまでのようにターミナル立地の大型店舗を中心とした商圏、やたらとチラシを配布したりCMを打つのではなく、「すぐに商品を届ける」という優良な顧客体験をUGCで拡散していただくというほうが、販促になるわけです。

気を付けていることはありますか?

怖いのは、社内の各部署が1人のお客様にいろんな働き掛けをしてしまって、お客様にうるさいと思われてしまうことです。顧客との接点は、デジタルがあるから定量で把握しやすくなっています。一方で、店頭での体験のような定性な要素も大事です。オムニチャネルとか、言葉は何でもいいのですが、いかに顧客の立場に立って、この定量と定性をつないで考えるかということです。ベテランの店長は、見えてきたデータと同じことを必ず言います

いま、データサイエンティストの社内育成がテーマになっている会社も多いですが…

ワークマンの土屋専務も、店舗スタッフがデータ嫌いにならないようにExcelから教えてますよね。統計って、まずは平均値と中央値と最頻値の違いぐらい覚えてたら良いので。しかし、結局、出てくる答えはベテランの店長の感覚と変わらないはずです。それを見える化できるかどうかだけなのです。だからこそオムニチャネルはリアルとネットの融合だけではなく、そこで働く人たちともかみ合わないといけない。従業員満足が上がってない会社で、顧客満足が上がるわけないんです。前述の評価の話もそうです。

従業員満足度は働き方改革と捉えられ、顧客満足度と同軸では語られないことが多いですね。

まずは、効率化の前に従業員満足をきちんと上げることが必要です。ネットと店舗のお客様を見える化して、働く人の評価につなげる。そして働きやすい道具を採り入れて作業をどんどん減らして、考える時間を増やしたり接客する時間を増やしたりすることが必要です。そうしたら、絶対に従業員満足は上がり、その結果として顧客満足は上がるんですよ。中古の買い取りの仕事もしていたのですが、ブックオフさんとか様々な価格帯のいろんな会社と話し合ってる時も「やっぱり買い取りの満足度って、接客の時間に影響するよね」って話が出てきたのは印象的でしたね。

中古買い取りのCS向上は接客時間なんですか?

ちゃんとお客様が納得するまで会話をすると顧客満足度は上がります。買取価格もちゃんと出し、相場価格とかも提示をした上で、コミュニケーションをするということです。その時間を生み出すためにデジタルを使って作業を減らすとか、相場表とかを出すのに、デジタルを使うとか‥顧客満足のためにデジタルを使うという発想になるのです。

よく記者の方からも言われるんですよ。「逸見さん、いつまでオムニチャネルって言ってるんですか?」って。でも、これまで語ってきたオムニチャネルをちゃんとできてるところ、どこにありますか?チャネルさえつなげばよいということではなく、顧客体験、従業員体験までしっかり設計できたら、何をどうつなげばいいのかって要件が簡単に決まるわけですよ。まだ多くの企業が、ここができていないのです。

お金をかけても、顧客の会員情報の登録、それから受注のところは、リアルタイムでコールセンターでも見えるようにしてあげなきゃいけないよねって思います。お客様から「オーダー失敗した」とコールセンターで電話を受けているのに、システムが5分バッチで動いてて、「ちょっとあと、3分待ってもらえますか」って、絶対言えないですよ。

すべてを顧客起点で考える|逸見光次郎さんインタビュー(3)に続く

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