創造的マーケティングの思考方法|前田英人さんインタビュー(2)

新商品の企画がどのように進んでいったのか?「からだ巡り茶」開発秘話は必見です。

「強いメンタル」と「すぐやる機動力」が大事

どんな人が、マーケターに向いていますか?

「強いメンタル」と「すぐやる機動力」を持っている方は向いているかと。メンタルについて、新たなことをやろうとすると、周りからいろいろ言われるのは常。そのコメントに対し、確固とした意志を持って判断できること、また批判を気にしないことです。(聞き手の)国本さんなんか社長だから、見えない恐怖と闘って判断され、事業継続されてらっしゃる。いわば鋼のメンタルが無いと務まらないでしょ?ふとした瞬間に意見対立が起こり、良かれと思ってコメントくれる場合も、悪意あるコメントも常だし、それがどちらか悩む時間ももったいないので、自分の意思に正直になり、何を言われても気にしないことです。

できるマーケターを推し量る基準というのはありますか?

「議論ができるか?=どれだけ人と議論してきたか?」はバロメーターだと思います。やっぱり主義主張をしっかりと述べる事ができないと。主義主張がある場合、引けないときは引けないので、反論=議論≒ディベイトできるか、は基準です。

主張するべきところは主張して、きちんと交渉をするということですか?

そうですね。マーケターは表現者なので、きちんと言いたいことを理論立てて説明できるスキルは必須だと思います。あと、すぐやる機動力も大事です。人間は行動を起こすとやる気が出る生き物です。行動すると脳の側坐核(注:前脳に存在する神経細胞の集団で報酬、快感、嗜癖、恐怖などに重要な役割を果たすと考えられている)が活動をはじめ、やる気ホルモンが分泌されますが、側坐核は、何かをやりはじめないと活動しないので。

ひとことで、マーケティングとは?

全方位の裏方。売れるために縁の下の力持ちとなり、課題を発見し、解決策を導き、確実に勝ちに行く方向を指揮する人のこと。仕事は、究極的には課題発見と解決策発見の2軸と思ってます。この2軸を成立させるために、縁の下で力を発揮するタイプか、矢面に立ってガシガシ進むかはキャラクター次第。個人的には、大きな組織は声が大きい人が多いのでマーケティングは、サッカーでいうなれば司令塔的なミッドフィルダーがバランスいいような気がします。

根拠なき勝算で突き進み、数字で評価する

アイデアマンの前田さんのメモ帳

新しいアイデア、概念の作り方を聞かせてください。

正解はないですが、オーソドックスにInput-Outputの反復が無いと発想は生まれないと思います。実生活において、いろいろな事象が目に飛び込んでくるけど、その事象を自分に当てはめてみて1人で妄想してみる。他社広告を見た場合「なぜ、けやき坂なのか?モー娘。じゃダメなのか?」とか、「自身だったらどうするか?それはなぜか?」…など。このような妄想を繰り返すと発想トレーニングになるんじゃないでしょうか。優秀なアイデアマンは膨大な情報を持っており、話せばその情報量に圧倒されるし、実際そういう人は本物の場合が多いです。Input作業によりものを知る、という事は凡人にできる最低限の努力だと思います。

一つの方法として、一般的に語られている新ブランドの開発プロセスを忠実に再現してもアイデアは生まれると思います。オーソドックスに、競合環境分析やってマクロ分析やって、ユーザーインサイト分析して、そこから逆算して製品アイデアを作るみたいなこと。このやり方では全くの新概念は生まれてきませんが、考えるきっかけは生まれてくると思います。全く新しい概念の製品っていうのは、既存にないので既存データ分析では出てこない。それこそ個人の“こんなものが欲しい”みたいなエゴから生まれてくる。自分のエゴにより生まれ、情熱で推進みたいなことなんです。

例えば大昔に作った「からだ巡茶」、2004年とか2005年とかそのぐらいだったと思いますが、当時はそもそも漢方の考え方を持ったお茶なんていうのはなかったわけです。周りにないんだから競合環境とかマクロ分析とかできないわけです。

そもそもコンセプトがないから、調べようがないですよね。

そう、ないんだから。そうすると結局、情熱を持った企画者である自分が、根拠なき勝算で突き進むしかないんですね。こういうやり方でも意外にうまくいっちゃったりします。もちろん、あらゆる調査手法を用いて各種指標を数値化して、多面評価しながら成功確率を上げていく作業はしてますけど。

エゴで推進しつつも「いけそうだ!」となる瞬間は、いつですか?

消費者調査のスコアなり、取引先の目利きの出来るお客様だったり、他者の評価です。新コンセプトは、軸が個人のエゴで、いろんな人からいろんなことを言われるたびに、不安からコロコロ変わるものです。その不安定な状態が徐々に安定に移行し、名前が付いて、パッケージデザインが付いて、飲み物だったら味がついて1つの最終形になっていきますが、その段階になって初めて客観評価できるようになる。さらに目利きの人の評価を受け、消費者テストで数値化しますが、正解は市場評価のみなので、上市前に受けた他人の「きっと大丈夫だよ」といった励ましのお言葉で安心することはないですね。

外野はそうなりますよね。

他人の評価は感想にすぎないのでしょうがないです。当人は上市前に投資やら売上予測やらの重責があるわけで…その重責から解き放たれる瞬間っていうのは、上市後の初週以降ですね。からだ巡茶の場合、上市8か月前に社内外ステークホルダー数百人にお披露目会があったのですが、「からだ巡茶」って聞いたことないような奇妙な名前を発表したときにどよめき、ざわざわが混じった声が会場から起こったのを覚えてます。普通は「生茶」とか「綾鷹」とか、いわゆるお茶らしい名前ですから(笑)。

いやいや、キャッチーな名前です。

それは結果論なんですよ。あのとき作ろうとしてた名前って、お茶の文法に倣って楊貴妃の貴に美しいと書いて「貴美茶」とかいろいろありました。「からだ巡茶」の名前は、センスを持ったクリエーターが考えたんですよね。

「基本的に漢方の考え方である、たまってるものは巡らす、そして悪いものは出す、巡って出すんだ、みたいな、いわゆる陰陽五行の考え方に基づいて作られたものなんですよ」「それをひとことで言ったら何なんですか?」「巡らせて出すんですよ」…みたいな議論をしていたとき、コピーライターが「巡茶でいいじゃないですか」となったんです。「巡茶」だと漢字で硬いので、「からだ」を平仮名で付けましょうみたいな感じで。それは、「バズります」とかそういうレベルの根拠なき決め方だったんですよね。

根拠がない、分かんないですよね。

もう時間切れで乗らざるを得なかったんです。商標登録や特許、入稿、薬事、事業プラン、説明会など、上市に向けて膨大な作業がありますから。根拠なく決めたものなのでいつまでたっても不安でしょうがないんだけど、もはや直す時間はないから心中するしかない。こういう不確実要素の連続作業は、どこかで腹をくくるしかないんですよね。それでも怖いので、最終消費者テストを行い、パフォーマンスを可視化するわけですが、ベンチマーク品比較で有意差つけて勝ち、初めて安心しました。

会社のお金を預かって、自身の企画で社会に信を問う

「死ぬほど時間をかけているので、担当した商品で売れなかったものはありません」

仕事の面白さと難しさについて、聞かせてください。

マーケティングに限ったことではないですが、会社員って「使える費用、使える人的リソース、他者の経験とスキル、会社の看板」の総和で実現する物だと思います。自身の企画を、会社の人・物・金を使って、社会に信を問う過程において、会社が大きければ、預かる費用総額が多く、いろいろな人と働けるので経験を積めるしスキルも上がる。ビジネスは社内外に与える影響力も大きいので、企画を通す経験、意見対立、迷いや葛藤など苦労も絶えない。でもこういう一連の経験が後にスキルとなり、成長すれば周りの反応でわかるので楽しいです。これらを組織に守られ、雇用の心配なく実現出来るので会社員って好きです。

安全性を担保しつつですね。

雇用が守られているので絶対的な安全なポジションです。成功すれば社内に与える影響も大きいですし、相手の自分を見る目が変わってくる過程も面白いです。失敗するとさっきのメンタルみたいな話につながってくるんですが、自分を信じていれば気にならないし、仮に失敗しても失敗から学び、次は成功させればいいので。

面白いのはすごく伝わってくるんですけれども、逆に難しいところは?

見えない恐怖がどこまでも付きまとうので、どこで腹をくくるか、そのタイミングは難しいなと思います。っていうか、どのタイミングが正しいかはわからないです。

商品を出すまでの間には、相当の葛藤があるっていうところですよね?

葛藤だらけです。でも生きていれば葛藤はあります。高額品購入、例えば車だってそうじゃないですか。レクサス欲しいけどBMWのほうがいいなみたいな、さあどっち!ってなったとき、“まだ悩んでんのかよ?”と冷めた営業マンを前に“エイヤー”で決めざるを得ない。で買ってから、やっぱ外車は維持費が高いってなったりして。人生は選択の連続で、何が正しいかはだれにもわからないので個人で葛藤し、個人が満足いく選択をすればいいのではないでしょうか。大事なのは自身の決定が外れても、まあそういうこともあるな、と割り切ることです。

実は、あまり難しさって感じないってことですか?

失敗しても成功しても自身の判断を納得しているので、気にならないという言い方が正しいかと。

それまでちゃんと準備に時間をかけていますものね。

結局、準備に十分な時間かけているのと、自身の持つ標準化プロセスを守り、失敗を数値化しながら進めているので、売れないとしてもそんなに想定から外れないんですよ。

創造的マーケティングの思考方法|前田英人さんインタビュー(3)に続く

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