諦めずに進み続ける|『起業の道標』伊藤一彦さんインタビュー(2)

『起業の道標』執筆の経緯

ご著書の『起業の道標』は5年かけて書かれたとのこと。そもそものきっかけはどんなことだったのでしょうか?

かねがね、自分の経験をきちんと整理して、伝えていきたいと思っていました。共著ではこれまで既に3冊書いていて、全て自社でやったことを整理して、論理立てています。実は『起業の道標』の出版も創業から決めていたことなのです。なので、創業からの紆余曲折については、将来本に書くために書き留めていました。結局出版までには21年かかりましたが。

上場したら、創業からの過程の整理をして、本にして出そうと決めていた

僕は、会社を経営して上場させるところまでが、一連のプロセスだと思っています。上場は1つの、ある意味ベンチャー企業の中のゴールだと思っているのです。仕組みとして出来上がったからこそ上場できるわけですから。創業から上場までを整理して本にしたり、講演をしたりして、後世に伝えていきたいと思って経営をしてきた感じです。

伝えたいとおっしゃっているのは、若い経営者に対してですか?

そうですね。これからのベンチャー企業経営者の方々に伝えていきたいと思っています。もちろん、従業員の皆さんにもお読みいただいています。従業員の皆さんにも、自分たちが一緒にやってきたことを伝えたいという想いも込めて書いています。

上場する会社が増えたらいいなというお気持ちはありますか?

はい。上場する会社が増えていくのは、経済のためにも雇用のためにもすごくいいと思います。会社は、上場をすることで資本と経営の分離ができるので、上場は会社のためにも大事ではないかと思っています。

実際に上場して良かったと思っています。周りの経営者の方も、みんな上場して良かったとおっしゃいます。逆に何か悪いことがあるかと思い浮かべても、株価が下がっているときのYahoo!の掲示板を見たときに悲しい気持ちになるぐらいです(笑)。

それはありそうですね。中でも、一番良かったことは何ですか?

一番は本を出せたことです。あと、会社説明も楽になりました。上場前は色々な項目を説明しないと駄目でしたが、今は東証グロース上場企業ですと言って、最低限の事業の説明だけすれば、変な会社とは思われないです。あとは世界観が変わったことです。たとえば分かりやすいものですと、M&Aについてです。当然上場前はBCCさん売りませんかというご連絡が来るのですが、上場すると今度は逆で、こんな会社がありますが、買いませんかという連絡に変わるのです。

また、入ってくる情報の量が変わるのです。これぐらいの金額でこんな会社が買えると分かるようになるのです。今、2社うちから出資をして資本業務提携をしているのですが、上場前は、資本業務提携などありえないですよね。何のメリットもないので、上場してない会社から出資を受けたいなんて、誰も思わないわけですよ。でも、今うちは上場しているので、うちが出資をしたことがプラスになるようになったのです。お金を銀行から借りられるし、他のベンチャーキャピタルからも調達できます。うちからしても、株を持たせていただいて業務提携もさせてもらって嬉しいので、資本業務提携というのをどんどん増やしています。

『起業の道標』も、うちが上場したからみんな買ってくれますけど、上場してなかったら多分みんな買わないと思います。上場していない中小企業だったら、「お前の『起業の道標』なんか見ても仕方ないわ」ってみんな思いますよね。

上場による信用によるところが大きいのですね。

そうですね。社会的な信用力が全く違います。僕に対しての扱いも変わりました。どこに行っても、「上場企業の社長さんにわざわざ来ていただいて…」と言われるようになりました。茶菓子とか用意してくださっているのです。今まで水だったのに(笑)。上場する前も後も、僕は別に大して変わらないのですが。スケジュールも変わっていないし、むしろちょっと暇です。上場前の方が審査とか忙しかったですね。

『起業の道標』の中でここだけは伝えたいという部分を教えてください。

諦めないことです。会社経営というのは、うまくいかないことが多いですよね。うまくいかないことを前提に会社経営をやるべきだとすら思っていますが、何もかもうまくいかない時に、どうするかが大事だと思うのです。諦めて、駄目でしたと言うのは簡単ですが、諦めないことが大事ということが伝わればいいと思っています。

たとえば、右の道に行ってうまくいかなかったら、次は左の道に行ってルートを変えてみたり、歩いて行って無理なら走って行く…など、やり方を変えてみたいです。いろいろなやり方を試してみて、とにかく諦めないことが大事だと思っています。うちも手を変え品を変え、やり方を変え、会社名も変えて上場しました。

諦めないで続けられるモチベーションは何でしょう?

「諦めるという選択肢が、最後は頭の中になかったですね。」

そうですね。1つの夢として上場がありましたし、社内からも、社外からも多くの人に応援してもらって会社経営をしていたので、諦めたらその人たち全員の気持ちを裏切り、また諦めてもらうことになります。そういう意味では、途中からは義務感もありやり続けてこられたと思います。

イグジット(EXIT)にM&Aという選択肢はなかったのですか?

頭には何度もよぎりました。実際に、ベンチャーキャピタルの方々からも、今回うまくいかなかったらM&Aを考えましょうと言われていました。

うちは、1回上場を諦めているのです。ちょうど、リーマンショックの後です。2回目の挑戦で、ベンチャーキャピタルさんから出資してもらうときに、「もし今回のファンドの期限通り行かなかったらどうされますか」という質問を受けて、「その時はM&Aを考えます」と回答しました。2016年に出資いただいたファンドの期限が来るのが2025年~2026年なので、僕はその時既に50歳を超えているのです。仮に株をまた買い戻し、出資してもらってまたやる…となると、10年かかると考えたら、僕は60歳を超えます。そうなったらもう無理だと思いましたので。

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