すべてを顧客起点で考える|逸見光次郎さんインタビュー(1)

事業会社でさまざまな企画職をご経験の方にお話を聞く「ClientView」。今回は、セブンネットショッピングやイオンネットスーパー立ち上げなどに携わってこられたオムニチャネルの第一人者の逸見光次郎さんにお話をお聞きしました。逸見さんは『小売DX大全 オムニチャネルの実践と理論』の編著者でもあります。専業プランナーのみなさん、プランナーを目指す学生さん、多くのマーケターのみなさんの参考になれば幸いです。

【聞き手:株式会社シンクジャム代表|国本智映】
小売DX大全

現場の人、大学の先生が集まって1冊の本にしました

「小売DX」は、どういう経緯で書かれたのですか?

日本オムニチャネル協会(JOA)の立ち上げ期(2020年4月)に、ちょうどコロナが始まってしまいました。私の師匠である鈴木JOA会長(元セブン&アイHLDGS.執行役員CIO)が、「どうせなら、1年間の議論を本にまとめるぐらいのつもりでやろう」と話をされていたこともあり、2021年になって「さあ、本にしようか!」という流れになりました。

協会の立ち上げ時から、計画があったのですね。

はい。当時小売企業や、IT/マーケなどの支援事業企業から100人ほどの参加者が、商品、売り場、販促、カスタマー・サービス、物流、管理の6つの分科会の中で議論を進めていました。その内容はこの本の第3章“小売DX実践者たちの議論”で形にしています。 でも、それだけだと現状に終始する本になってしまうので、「今DX化が推進されているが、そもそも小売りの歴史的な流れは?、また業種別にはどのように違うのか?」という流れや、「ドラッグストアとスーパーのDXは?」など全体感を踏まえた前置きを付けることにしました。また、協会に参画している大学の先生方に言葉の定義付けをお願いしました。そしてこれからどうすべきかという提言を入れました。

「小売りの未来」という締めの章が素敵でした。テクノロジー的にはもう可能ですか?

すでに道具はあります。その道具を実際のビジネスにどう使うか、そもそもニーズがあるのか、という疑問から、直近ではなく10年先の2030年を目安に妄想しようということになりましたね。

そういう未来になったらいいなと、思って読ませていただきました。

この間も気付いたことですが、スマートシティ構想の中には、モビリティなど生活インフラのいろいろなものが含まれている。でも、なぜかリテールがない。読んでいて驚きました。お店があるなしは別として、リテールのような商流がどこかに存在していないと生活できないですよね。

キャリア① リアル書店からネット書店へ

キャリアのスタートは本屋さんですよね?

学生時代は書店で長くバイトしていました。3月になると、トラックを運転して教科書を売りにいくという法人営業に近いこともやらせてもらいました。それで、書店業界面白いな、と。元々書店が好きだったので、出版というよりも、いわゆる流通の取次とか書店に就職したいと思っていました。1994年、就活を経て入ったのが三省堂書店です。

私がいた神田本店は、6つの専門書フロアがある大型書店です。私は主に教師・保育士向けの本を担当していました。すると、お客様がわざわざ遠くから買いに来てくださるのです。

学校の先生が高い交通費をかけて来店される?

はい。地方の書店には必要な本がないからです。実際、電話の問い合わせも多くて、当時は先に代金を振り込んでいただければ本を送付するサービスをしていましたが、時には本の代金より送料の方が高い場合があるわけです。本は定価販売ですし、サイズが大きいのでネット販売に向いているなと元々思っていました。

本は文化的商材で、全国津々浦々に届くように再販売価格維持制度で定価販売が義務付けられていて、配本日や発売日すら制御されている。それなのに地方のお客様は高い交通費や送料をかけなくては入手できない本がある。そのためネットでデータベースを整備・公開して在庫がどの書店にあるか?出版社にはあるのか?…など、お客様により多くの情報を公開したいと思いました。本は定価販売ですし、サイズが大きいのでネット販売に向いているなと元々思っていました。

しかし、当時の三省堂書店ではまだやらないと。その時に日経新聞を読んでいたらソフトバンクが日本初のインターネット書店を立ち上げるという募集広告が出ていたのです。

日本初のネット書店の採用広告が出ていた?

はい。広告を見て行ったのが、今のセブンネットショッピング。当時はソフトバンクのイー・ショッピング事業部でした。そこにセブンイレブン、本の取次のトーハンと、ヤフーが入って4社合弁のネット書店になったのです。

キャリア② 大型リテールへ

イオンに入社されたのは、どのような経緯でしたか?

セブンネットショッピングは立ち上げた時から、セブン-イレブンでの受け取りが7割。お客様は、家や職場、学校の近くのセブン-イレブンを指定して本を受け取り、ついでに日用品を買って帰るという購買行動でした。アマゾンジャパンでは2006年にようやくコンビニ受け取りが始まりましたが、全然主流ではなかった。

EC専業でも店舗の重要性を感じていたということですね。

そうです。私の中では、日本のeコマースは、店舗という接点を使った方がお客様は便利なのだろうという考えになりました。自分が店頭にいたというのもあるし、そもそもセブンネットショッピングで受け取りは店が圧倒的に多かったというのもある。7年間で色々な事をやり尽くして、アマゾンに行きましたが、リアルの顧客接点は重視されていなかった。次にどこに行けばいいのかと迷っていたらイオンが拾ってくれて、すぐに「ネットスーパーつくってくれ」と言われました。

ネットスーパーは、SKUが大量で、値段の変動が激しく、購入タイミングもバラバラ‥と、一番大変そうなECですが…

末端の運用というところでは、JANコード体系が6~7つもあり、確かに大変です。ソースマーキングの、45、49から始まるコードと、20等で始まるインストアコード。実際に、自分で売り場の商品をPOSレジで読み込み、もしくは有効桁数まで手で打ち込み、イオンの商品コード体系とシステムマップを整理・理解し、ネットスーパーの商品マスターを作りました。

最初は実際にすべての仕組みを自分で触って、「おっ、反応してるじゃん」と体験していました。

果てしない作業で、想像するだに大変そうですね。

どうしてできたのかというと、私、普段から買い物して、スーパーがどうだったら便利なのかという、頭の中に妄想があったからです。

キャリア③ カメラ店へ

書店やスーパーもユーザーの立場から入社されたわけですが、キタムラさんへもカメラがお好きだから入られたのですか?

そうです。でも、初めて「カメラのキタムラ」の店舗に入って買い物をしたのは入社後でした。なぜそんなに売れるのか、外から見ると全然分からない。だから入りにくい。でも、その感覚はお客様も同じではないかと思いました。だったら、ネットで知ってもらおうと。

ラッキーだったのは、社長が1年ぐらいECを兼務していたので、ECがいかに手間がかかって大変かということをご存じだったことです。一つひとつの施策、山のようなKPI、その下には無数の指標、ということをご認識されていたわけです。

消費者=生活者のことを意識する

最近、多くの企業がDX人材を探しているのですが、自社のサービスを使ったことがない人には難しいですよね。ビジネスモデルが、BtoBtoBtoCかもしれないし、もっと複雑なものがあるかもしれないけど、いずれも必ず消費者がどこかにいるはずです。その消費者を思い浮かべながら途中のBの話の整理をしないと、いくら取引の話を整理しても何もできないじゃないですか。そして消費者は単に買い物する人ではなく、生活者と捉えるのが重要です。

どうして内部の方ばかり向いてしまう?

社内評価があるからです。なので、分かりやすい社内評価にしたらいい。

「ネットで注文→店で受け取り→お金は店に払う→店のPOSレジで売り上げが立つ」のであれば、ECの部隊を評価する時に、送客した分、つまりPOSレジで売り上げが立ったのと同額を評価にして全部足せばいいと。

その辺りをきちんと整備しないと。評価軸や組織は時代に合わせて作られますが、それを決められるのは、経営であり現場ではない。「やりたい」というボトムアップはできたとしても、そのルールを変えられるのはどの企業でもおそらく経営だけです。スタートアップの変化が早いのはルールを変えられるからです。経営も交えてみんなで話し合う場があるからです。

でも、これが大きな会社になればなるほど、会議体が途中にいくつも挟まれたりする。その件は、職務権限規程上、月一回のこの会議で決める必要があるとか。

戦略担当でしたので、組織で序列を越えてはいけないというのはよくわかります。ですので、どうしても社内を見てしまうのは、仕事上、自分の範疇かどうか?評価基準がどうか?が優先され、余計なことはしなくなるからです。

社内セミナーで呼ばれると、皆さんの評価軸、KPIは何か、何で褒められますかと質問します。すると、商品の仕入側は、仕入原価を安くして粗利を上げる、それに対し販売側は、在庫を減らすとか回転を上げるとか。このようにほとんどの場合、ちゃんとかみ合っていません。

サラリーマンが一番困るのが、成果を上げたとしても評価されないことですね。

今までマーケティングという言葉は非常に曖昧でした。販売促進の話なのか、顧客理解の話なのか、協会でもよく不明瞭になります。商品、売り場、販売促進、CSが顧客軸で「横」につながっているのがマーケティングであると明確になれば、管理・経営側でその繋がりでの評価軸をサポートする動きが始まり、かみ合っていきます。しかし、今までは組織という「縦」で見てしまっているので、それぞれの部署が見ている”お客様”の姿が異なってしまっていたのです。

横をつなげていく。つなげるのはデータですか?

そうですね、データと評価です。だから、お客様を新規とリピートで把握し、商品価格×客数×回数=売り上げ、という式に沿ったライフタイムバリューの算出がオムニチャネルでは重要です。重要なのは長期に渡ってリピート率が高いかどうか?です。

N1が大切

元P&G、元ロクシタン社長の西口さんの書籍の中で、Nは1だとあります。N数が1,000とか1万とか、10万とか、統計はそれでいいのですが、マーケティングで考えるときには、N1やN2にこだわる。身近な人すら満足させられてないのに、1,000人も、1万人も満足するはずがない。その考え方がすごく好きです。

一人で見えた施策の方が刺さりやすい。

一人の顧客をまず見える化して、それを社内で共通言語化するために、ペルソナ化するということです。そのペルソナが実際にいるわけではなくて、共通言語の機能として、ペルソナ化した方が発揮しやすい。コンセンサスを得たら、今度は統計データからその人たちが実際に人口分布上どのぐらいいるのか、どこに住んでいるのかというターゲティングに落としこんでいく。なぜかどちらかだけに偏り、そのプロセスがいつも飛んでしまうのです。

ペルソナを延々と議論してしまうケースも見られますが…

SNSエキスパート協会の本門さんに、ペルソナとターゲティング、何が違うのか教えてもらったことがあります。ペルソナは社内の議論のため、ターゲティングは実際にアクションする時のためと、非常に分かりやすかった。

これもきちんと数字につないでいくためには、お客様を囲い込むのではなくて、お客様のニーズを仮説として立てて実施・検証していく。5年、10年買い続けているお客様は、どのカテゴリーをいつも買ってくれているのかとか、それは季節によって変動はないのか分析して理解する。この人たちは新規で安いものを買う層ではないので、例えば、毎年衣替えをするシーズンに、衣装ケースの買い替え時に防虫剤の購入も提案したらいい。お客様にそういう提案を行いながら、さらにロイヤリティーが高い人には、「ご自宅までお届けします」という値引以外に明確に優遇するようなことも提案したらいい。このようにお客様が見えたら、そのお客様をどう大事にするか、考えられます。

優良顧客に対するプラスアルファのサービスですね。

はい。古い衣装ケースを回収するサービスは、一部のお客様だけが対象です。そうすると、このお店で買い続けたら、こんなに大事にしてくれるんだということになりますよね。しかも、そのお客様は何もしなければ、今のステータスでロイヤルかもしれないが、そのうち離れているかもしれない。その観点からどんな接点をどうつくっていくかを考えることが大事です。一人一人ではなくセグメントして、代表ペルソナを立てて、もう一回ターゲティングし直してアプローチする。重要なペルソナ群にシナリオを立ててアクションし続ける。

パーソナライゼーションではなく、セグメンテーションが大事なんですね。

データだけでは見えないこともありますよね?

昔、セブンのマーチャンダイザーとおでんの話をしていたら3時間も経っていたことがあります。店内に匂いがこもるから、まずだしの種類を変えようと。次は、換気口の下に鍋を置こう。それでもなお匂いが気になるので、何時間かに1回スープを交換しようと。そういう話を延々としてくれた。いくらおでんが売れても、その匂いが嫌なお客様が来なくなったら困る。だから、売るシーンまで考えなければならない。それはデータだけでは見えてこないので、現場に張り付くということです。

学生のうちに、身につけておいた方がよいスキル・資格は?

確かに言えるのは、好きなアルバイトをやるということです。簡単に会社の中に入って体験出来るので、気になる業種、お店、会社があったらそこでアルバイトさせてもらったらいいと思います。インターンの形式でもアルバイトの形式でもいい。そこでいろんなところを見る経験は絶対無駄にならない。体験したことがあるという引き出しがあれば、今後の仕事の中で、会社の中で、いろんなことが考えられる。資格は、関心があれば取ればいいですね。

学生の時から、無理にマーケティングやビジネスに関する資格を取ったりするよりも、いろんな体験をする方がいいと思います。海外に気軽に行けるのは学生のうちくらいですね。1か月や半年も海外旅行なんて、社会人になったらまずできないですから。いろんな目線を持ち、実際にそこで体験してみるのがいいと思います。

すべてを顧客起点で考える|逸見光次郎さんインタビュー(2)に続く

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