事業会社でさまざまな企画職をご経験の方にお話を聞く「Client's View」。今回は、セールスコンサルタントをされている村上彰さんにお話をお聞きしました。専業プランナーのみなさん、プランナーを目指す学生さん、多くのマーケターのみなさんの参考になれば幸いです。 【聞き手:株式会社シンクジャム代表|国本智映】
営業の最前線からキャリアをスタート
今、村上さんはどんなお仕事をされているのですか?
昨年(2022年)3月に勤め先をいったん定年退職しましたが、雇用延長で、今はアドバイザーという立場で後進指導をしています。一方で社外では、これまで38年間営業の現場で培ってきたノウハウやスキルを広く世の中にもお伝えしたいと思い、営業力強化で悩んでおられる企業様とか一般のビジネスパーソンの方向けに研修会などを行っています。
社内外でノウハウを伝えてらっしゃるのですね。これまでの経歴をお聞かせ願えますか?
私は、1984年に大学を卒業し、大手コンピュータメーカーに就職しました。会社に入り、すぐに営業の現場に配属されました。いわゆるエリア営業で、当時の自分の担当エリアである東京23区内を軒並みローラー営業していきました。昭和の時代ですから、「努力・根性・頑張り」とでやるわけですね。当時コンピュータはもう珍しくはないけれど、まだ一般的ではなかったので、みなさんに話を聞いていただけました。
大型コンピュータから、小さなパーソナルコンピュータ。当時はワープロやファックスもありました。そういった売れるものは全部売るスタンスで、営業活動をしていました。途中で転勤もありましたので、現場の営業を首都圏で約13年間やり、その後地方都市で12年間。その中で5年間だけ営業支援系の部門長の経験があります。ずっと現場営業でしたので、いきなりなぜ村上が営業を支援する部隊の部門長になるのかという不可解さはあったようですが(笑)。
その部隊は、一言でいえばPM(プロジェクト・マネジメント)です。いわゆる営業戦略、マーケティング、お客様へのコンサルティングなど、いろいろなプロジェクトが円滑に進むように調整していきます。5年間、部門長として営業現場を離れて、あれこれ思考しました。そのあと首都圏に戻り、またそこで5年間。そして今から9年近く前、2014年にコンピュータメーカーのソフトウェアの子会社に出向となり、そこで新しく営業部隊を立ち上げる役割を担いました。
新しい会社では営業部門、マーケティング部門を立ち上げてきたのですが、そのとき非常に面白いように業績が伸びました。私が担当した頃は年商60億円にも満たなかった小さな営業部隊でしたが、私が退任するまでの8年間で年商約330億円まで上がり、大変いい思いをさせていただきました。
分析から見えてきた「優秀な営業パーソン」像
営業パーソンのスキルとして、特に大切なものはなんですか?

エクセルが主流でなかった時代に分析手法を駆使
「営業的な考え方」です。データ分析をした結果、優秀な営業パーソンというのはこの「営業的な考え方」を身に付けていたのです。これは、お客様都合でものを考えるということです。例えば、いい提案をすればお客様が買ってくださる。確かにその通りですが、いい提案の基準は多種多様です。売り手側から見たいい提案もあるかもしれませんが、大切なのは、お客様側から見て、いい提案になっているかどうかです。それをあまり考えず、自分たちがいいと思ったものを提案する。なぜお客様はわかってくれないのか、と考えてしまう。それは明らかな間違いです。売り手の都合で売るのではなく、お客様ありきで、提案を組み立てなければいけない。この「営業的な考え方」がしっかりしないと、自分はこんなにいい提案をしているのに、こんなに毎日通っているのに、なぜわかってくれないのかとなってしまう。
お客様の立場で提案をするということですね。
そうです。意外とお客様というのは自分の選定基準や、価値基準が曖昧なところがあります。お客様の立場に立つと、ものというのは、なかなか簡単には買えません。ネットにはさまざまな情報がありますが、それが正しいかどうか、恐らく判断がつかないですから。ですので、営業パーソンはお客様に寄り添い、いろいろとお話を聞きながら、ナビゲートすることが大事ですね。立て板に水のごとく自社のプロダクトについてとうとうと喋るといったイメージが営業にはあるかもしれませんが、大切なのは傾聴です。お客様の声に耳を傾け、なぜそのソリューションが欲しいのかを一緒に探すことですね。
なかなか、お客様が話してくださらないこともあるかと思うのですが、そういうときはどうしたらいいのでしょうか?
信じることです。私はよく、池の魚の話で喩えています。池があれば、そこに魚がいると思ってほしい。魚がいると思っている人、あるいはこの池には、魚がいないと思っている人。どちらが魚をいっぱい釣れますか。
この池には魚が絶対いないと思っている人は、多分池を調べたりしないです。あるいは、周りの人に聞くこともない。多分、釣り道具も買わないでしょう。釣りの仕掛けも工夫しない。こんな方、恐らく一匹も釣れません。だって、魚がいないと思っていますから。でも、この池には魚がいると思っている人は、工夫をします。近所の人に聞き込みしたり、あるいは釣り道具を揃えて、釣り糸垂れてみたり。毎日釣り糸を垂れていたら、もしかしたら近所の人たちはそれを不憫に思って、こっそり魚を投げ込んでくれるかもしれません。実際営業って、そういうことが多いです。
毎日でも行って、釣り糸を垂らしているという、それが非常に大事なのです。隣の芝生が青く見えるのがこの世の常なので、営業パーソンは、自分が担当しているエリアは、全然いいお客さんがいないと思ってしまいがちです。あの先輩、いいな、いいところを担当して…と思うのですが、そういうことを思っていたら、一生魚は釣れないです。自分の担当しているエリアも、やり方さえきちんとやればいくらでも魚は釣れると思ってやってほしい。そうすると、実際に釣れます。
あとは、すべて物事は変化するので、変化の可能性も信じ込むことですね。可能性を信じられない限り、手を打たないですから。提案も甘くなってしまうし、お客様の心に響かない。このお客様はいつか買ってくださるはずだと信じる思いがあるから、いろいろな手がきっちりと決まってくるのです。どうせここのお客様のところへ行っても、話を聞いてくれないし、相談はあっても別のメーカーに行っちゃうしと決めてしまうと、どうしても提案が甘くなってしまうでしょう? でも、必ず人の心は変わるんです。池には魚が必ずいると思い込んでやっていくと、しっかりとした資料を作れるのです。
現場に勝るものはなし
営業マインドとして押さえておくべきポイントも、たくさんあると思うのですが、営業に役立つスキルやマインドはどうやって身に付けるのが良いでしょう?
勉強は大事ですが、そればかりでは駄目です。例えば、大学で経済学を4年間勉強しました。では、経済学を知っていて、儲かったのか。儲けることが、経済学の一つの仕事ですよね。そういったふうに、いかに体系的に営業のスキルを勉強しましたと言ってもそれで本当に売れるかどうかが、一番大事です。なので、営業研修の体系化にどれほど意味があるのかと、最近思っています。もちろん、やらないよりはやった方がいいのですが、それだけだと、ちょっと厳しい。一番大事なのは、やはり現場だと思います。
私がどうやって営業スキルを身に付けたかというと、もちろん各種研修を受けましたが、一番役に立ったのは、営業現場で上司や先輩が、「これ違うのでは?こうしたら?」と教えてくれたことですね。お客様からも、「村上さんこうしたらいいよ。お客さんは、こんなことを考えてるんだよ」と教えていただいたこともありました。この現場経験が、一番自分の営業スキルの向上に役に立ちました。

小さな成功体験の積み重ねがいい営業パーソンを作る
あとは、褒められることです。私のワークショップでは、褒めることを非常に大事にしています。上司が、若い営業パーソンに対して、褒めてあげて欲しいのです。営業のセオリー的なものにもいろいろと目を通してきましたが、とにかく褒めることが営業の基本のようです。お客様に対しても褒める。自分の営業パーソンに対しても褒めるのです。
今では目にすることもなくなったのですが、かつての営業現場というものは、厳しく人を育てる文化が根強く残っており、ともすればパワハラ的な指導がなされることも多々ありました。私自身もパワハラとも思えるような厳しい指導を受けて育てられた人間です。ですから、自分は若いとき、後輩に対して厳しくあたることもあったのですが、そのうち、違うと気が付いた。自分がこんなにつらい思いをしているのに、なんで自分の後輩や部下に、そんなつらいことを言えるのかと思いました。かつての上司を反面教師にしたのです。この8年間、新しい会社に行ってからは、私は1回も叱っていません。褒めることしかしていません。褒めれば褒めるほど業績が伸びます。この8年間、私の部下が頑張ってくれたおかげですが、本当に褒めれば褒めるほど営業の成績が伸びます。
褒めることは大事だと思いますし、それで業績が伸びたらとても喜ばしいですが、ビジネスなので、多少厳しい方がいいという考え方もありますよね。
厳しくてもいいです。ですが、一つ叱れば、3倍ほど褒めなくてはいけないとか、6個ぐらい褒めなくてはいけないとか言いますよね。私の組織だと、1:9以上だと思います。こういったことは、ワークショップでもお伝えするのですが、なかなか理解してもらえない。褒めれば褒めるほど、業績が伸びますと言っても、なかなかわからないようです。
考えてみてください。いつも叱られている営業パーソンが、お客様のところに行って、眉間にしわを寄せて買ってくれませんかと言われても、あまり買いたくない。でも、褒められてハッピーな人が来ると、話してみようかと思いますよね。私がお客様の立場で考えると、いつも叱られっぱなしの営業が来るよりは、褒められて、ちょっと甘い感じはするものの、ハッピーだという人間が来た方がいいです。絶対業績につながるのです。