諦めずに進み続ける|『起業の道標』伊藤一彦さんインタビュー(1)

大きく2つの事業をもつBCC株式会社

現在のBCCさんの具体的な業務について、教えてください。

大きく2つあります。1つ目が創業からずっとやってきました、IT営業を支援する事業です。これはIT業界の営業をサポートしていこうと始めた事業でして、その中でもメインはIT営業の派遣です。いわゆるエンジニア派遣の営業版と考えていただけたら、イメージしやすいかと思います。エンジニア派遣の会社さんはたくさんありますが、我々のような営業の派遣の会社ってあまりないのです。当社の取引先さんのNECさんとかIIJさんとか、そういった大手IT企業に当社の社員を派遣して、営業のお手伝いをさしあげる事業が1つ目の事業です。

もう1つの事業が、ヘルスケアビジネス事業です。こちらは、介護レクリエーションの事業ヘルスケア支援の事業に分かれています。まず介護レクリエーションですが、介護レクリエーションというのは、脳や身体機能の活性化、またコミュニケーションの促進などを目的として行われる運動などのことです。しかし、介護スタッフさんからすると、介護レクリエーションは準備も実施もすごく大変です。そのサポートしようということで、「介護レク広場」というWebサイトからスタートしました。その後、レクリエーション介護士という資格制度を作りました。おかげさまで、介護レク広場はかれこれ5万人を超える方々が使ってくださいました。また、レクリエーション介護士の資格は3万人を超える方々に取得いただいているので、延べ8万人を超える介護現場の方々に使っていただいています。この介護現場の声と、いわゆるメーカーさん、介護現場に商品サービスを売りたい企業さんをつなぐということで、ヘルスケア支援事業を行っています。

事業規模の割合はいかがでしょうか?

売上で言うと、8割5分がIT営業アウトソーシング、残りの1割5分ぐらいがヘルスケアビジネスになります。

今後は、どちらの事業を拡大していきたいという狙いはありますか?

当面、主力のIT営業アウトソーシングがおかげさまで非常に需要過多なので、こちらが先に伸びていくと思っています。ヘルスケアビジネスも伸び率で考えるときっと高いと思いますが、まだまだ1億2億の世界です。

創業に至るまでのキャリア

どうして、BCC株式会社を興されたのですか?

大阪の大阪市立大学、現公立大学を卒業して、最初にNECさんにお世話になって、3年間営業のお仕事をさせていただきました。その後ベンチャー企業に一度転職をし、社会人としては5年目の27歳の時に作ったのが、このBCCの前身となる「営業創造」という会社です。

27歳という若さで、なぜ会社創業に至ったのでしょうか?

実は、最初は学校の先生になりたいと思っていたのです。学部も理学部でしたし、教職課程も取っていましたし、ずっと学校の先生になるものだと思って生きてきました。

でも、たまたまベンチャー企業の経営者の方とお話しさせていただいたときにとても魅力を感じたのです。そこで、僕もベンチャー企業の道、さらに言うと独立するという選択肢があることを知って、学校の先生から進路をキュッと、将来独立するということに変えたのです。でも、大学を卒業していきなりベンチャー企業に就職したり、会社をつくったりすることは難しかったので、実はNECに入社するときに「僕は3年経ったら独立します」と言って面接を受け、それでも採っていただけた…という。そんな経緯もあって、僕はNECが大好きです。居心地もとてもよかったので、3年ではなく5年、10年と働いたら、きっと辞められないだろうというのもありました。なので、予定通り3年経って辞めました。自分の中で決めた期間以上にいたら、辞められなくなると思ったのです。独立すると心に決めていたので、何もアイデアはなかったのですが、NECは3年で辞めて、転職をし、ベンチャー企業で1年間働きました。

ベンチャー企業の魅力とは、何でしょう?

ベンチャー企業の人は、僕と同じ20代なのに乗っている車はベンツ。着ている服はアルマーニ。つけている時計はロレックスみたいな、分かりやすくお金持ちだったのです。生まれて初めて行くような美味しい食事に連れて行っていただいて、その時も彼らがみんなご馳走してしまう。同じ20代でこんなに違うものかと思いましたし、少なくともうちの両親も含む僕の周りにはそういう大人はいなかったので、そういう意味では本当にキラキラ輝いて見えました。「こういう人になりたい」みたいな憧れめいた感じです。

その後27歳でBCCをおつくりになって、IT営業の育成をされたきっかけは何でしょうか?

それは、NEC時代にたくさんのヒントをいただきました。NECに勤めているときに営業のお仕事をやらせてもらっていたのですが、IT営業の仕事というのは、とても大変ですよね。

まず、ITの言葉を分からないと駄目です。しかも、どんどん新しい言葉が出てくるので勉強しないといけませんし、当然お客さんとはコミュニケーションをとる必要もあります。受注が取れたらプロジェクトマネジメントもします。とても大変な一方で、業界ではあまり評価されていないとも感じています。たとえば、提案書を作るのも大変ですよね。一生懸命、何十枚もパワーポイントで作った提案書を出しても、受注が取れなければ無駄で、その提案書自体の価値も感じていただけないということも起こります。そこで、IT営業の価値って何だろう?と強く感じるようになりました。さらに周りを見渡したら、エンジニアの方々は学校もあれば、育成プログラムもあるのに、ITの営業に関しては何もないと気づいたのです。

IT営業に対する教育の不足を肌で感じた

営業教育もないのでしょうか?

ありましたが、本当に初歩的な見積書の作り方や、基本的な名刺交換の仕方だけでした。天下のNECですら、あとは現場で先輩に学んでくださいというスタンスだったのです。IT営業に対しての教育が圧倒的に不足していますよね。でも、現場ではITの営業が足りない、足りないとずっと言っているのです。そりゃ足りませんよと。エンジニアみたいに育てていないですし、中途採用もしていないですから。IT営業を育成できるような会社をつくれば、世の中の役に立つのではないかと思ったのが、BCCをつくったきっかけです。

会社をつくりたいというのと、IT営業を育てる事業をしたいというのは、どちらの想いのほうが先だったのですか?

会社をつくりたいという想いが先でした。IT業界で営業をやらせていただいた経験から、業界的な課題があると気づきました。それを解決できるような会社をつくりたいと思ったのです。

エンジニアの派遣というか、SES(※システムエンジニアリングサービス)みたいなものは昔からあったと思いますが、営業さんを派遣するという切り口がとても斬新ですよね。

今でも全然競合がないですね。「大塚商会さんみたいな販売店と被りませんか?」とよく言われるのですが、全然被らないのです。なぜかというと、大塚商会さんだったら、できる営業マンを自社で抱えるからです。エンジニア派遣の会社にも、たまたま営業できる人がいらっしゃいますが、基本はエンジニア派遣の会社なので営業の部署には派遣しないですよね。そうなると、販売店ともエンジニア派遣の会社とも競合せず、かれこれ21年経ちます。

仕事全般について

自分だけで解決できなかったことがあったり、問題が起こったときは、伊藤さんはどう行動されますか?

すぐにそれぞれの分野の専門家の方々にご相談するようにしています。たとえばですが、本を書きたいと思ったら、出版会社の方にご連絡してご協力をいただきますし、法的に困ったことあったら弁護士さんにご相談します。

自分の中で思い悩んだりすることは、あまりないですね。迷ったときはうちの役員にすぐに言います。そうすると、だいたい解決します。それでも解決しないときは専門家の方々に聞きます。

伊藤さんにとって仕事の面白いところと難しいところとは?

面白いのは、間違いなく自分が頭の中で描いていたことが現実化していくというところです。たとえば、IT営業を育てられたらいいなという想いで事業ができて、140名以上の人たちが実際にIT営業になって活躍してくれています。介護事業では、介護レクリエーションをもっと学ぶ必要があるという想いで資格制度を作り、既に3万人を超える方々に受けていただいています。自分が考えていたことについて多くの方々に共感していただき、事業になっていくっていうのが、とても楽しいです。アイデアを具現化していくところですね。うまくいかないことの方が多いですが、課題をどうすれば解決できるかをずっと考えて、たまたまうまくいけば、目の前で本当に課題が解決していくところが醍醐味です。

今までにないことを作っていくところが結構面白いですよね。ちなみに、難しいことは何でしょう?

人は難しいですね。人間関係は、いかんともしがたいところがありますから。事業をつくっていく上でも、人というのはとても大事ではないですか。それは別に合う、合わないというレベルではなく、こっちができると思っていても、本人に自信がなくてできないとか、もっとこうやったらいいのにと思っていても、残念ながらそれはできないとか。いろんな意味で、本当に人の部分に関しては常に難しいと思います。人が増えれば増えるほど、難しいなと思います。

人と接するときに心がけていることはありますか?

なるべく丁寧に接しようと思っています。役員の皆さんでも、従業員の皆さんでも、もちろん社外の方でも、できるだけ丁寧に接するように心がけてはいます。昔は良くなかったですね。偉そうにしていた時期もありました。人に丁寧に接するようになったのは、実は社長になってからです。

社長になって何回も会社が潰れそうになり、たくさんの人に助けてもらいました。当たり前ですが、助けてもらったらお礼を言いますよね。お礼を言わなければならない人、お世話になっている方がどんどん増えていって、こうなっていきました。たとえばですけど、僕は今お墓参りには半年に1回必ず行きますし、家には神棚を祀っていて、神様に毎日お願いしてから出社をしています。会社を作った頃、一生に一度のラッキーみたいなのが10回ぐらい連続で続いて生き延びられた経緯もありましたので、神様とか仏様とかご先祖様とかも、社長になってから信じるようになりました。

シンプルに運が良かったという言葉では片付けられないぐらい、本当に良かったと思うことがありましたので。そう考えると、自分の力だけでは何もできないことが分かるようになって、なるべく周りの人にも丁寧に接しないといけない、神様、仏様やご先祖様を大事にしないと駄目だと思うようになりました。

チャンスを掴みに行こう

学生さん・若い方に伝える、若いうちにこういうことをしておきなさいというような助言はありますか?

勉強をしたらいいと思います。社会に出てからも役立つ勉強とか、自分がやりたいことに近づく勉強をした方がいいのではないでしょうか。

時間を有効活用してほしい

僕らのような経営者になりたいのであれば、僕は中小企業診断士という資格を取っているのですが、この資格は、取れる、取れないは別にして、学生時代にもっと勉強しておけば良かったと思うような資格でもあります。あとは、簿記などですね。僕は、時間はあったので学生時代はよく遊んでいました。それも楽しかったですが、もう少し自分の将来のために時間を費やしておけば良かったとは、今となっては思います。

資格以外にはありますか?

学生の時にしか堂々と会いに行けない人に会うことですね。就職活動の時にはいろんな企業を回れますし、インターンでいろんなベンチャー企業の経営者の方々と話ができます。先ほども言いましたが、僕はベンチャー企業の経営者の方とお会いして人生が変わりました。介護現場でも、介護レクリエーションのお手伝いをしている学生さんは結構いらっしゃいます。そういう意味では、学生という立場を生かして、自分のやりたいことをやっておられる人とか、憧れている人とかに会わせていただくというのは良いと思います。本を読んで感動しました。ぜひ、ご挨拶させてください、インタビューさせてくださいと学生さんが言ってくれたら、僕は喜んでお会いします。

なるほど。でも、行動するのがちょっと嫌だ…という人は結構多いと思います。

目の前にチャンスが現れたときに、それを見過ごすのか掴みに行くのかで全然違うとは思っています。振り返ると、僕がベンチャー企業でお仕事のお手伝いをさせていただくようになったのも、友人がたまたまチラシで高額アルバイトを見つけたところからでした。その友人に誘われて行ったベンチャー企業で、新規事業でパソコンを使った個別指導塾を立ち上げますということになっていまして。そこで、第1号の塾長を探しているから、塾の先生の経験のある僕にやってみないかと打診が来たのです。僕はチャンスだと思ったときに、それを必ず掴みに行こうと思っているので、当時はまだ学生でしたが、「はい、やります」と言いました。1校目の立ち上げを初めからやらせていただいたので、大変でしたが、本当にやって良かったと思っています。

チャンスを掴みに行くことが大事だとわかっていても、なかなかできないですよね。

できない理由を探したら本当にできないですね。今できるか、できないかで言ったら、「今はできないかもしれませんけど、何日か経ったらできるようになると思うので、やります」みたいなこともあっていいと思います。僕の場合は、根拠のない自信があったからできたという面はありますね。学生の頃から勉強もスポーツも大してできなかったのですが、仕事に関してだけはやったらできるという自信が変にありました。

さっきのチラシの仕事は、家庭教師派遣会社の営業の仕事だったのです。家庭教師の無料体験で、子どもに勉強を教えて、その後、親に家庭教師のシステムを説明して、入会諸経費3万円をもらって帰ってくるという仕事です。その3万円のうちの8,000円がもらえるという、完全歩合制の仕事です。労働基準法上も、いま考えると問題がありそうですが…。僕は当時塾の先生をやっていたので、教え方も上手くて契約をバシバシ取っていけました。1日2件回ったら、1日1万6,000円ずつ儲かっていって、結構自信がついたっていうのはあるかもしれません。何の取り柄もありませんでしたが、仕事という分野、特に金を稼ぐという分野では、他の人よりも優れているのではないかと思えるようになりました。

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