創造的マーケティングの思考方法|前田英人さんインタビュー(1)

事業会社でさまざまな企画職をご経験の方にお話を聞く「ClientView」。今回は、外資系化粧品メーカーの研究開発や外資系飲料メーカーのマーケティング担当を歴任されてきた前田英人さんにお話をお聞きしました。前田さんは『新製品・新事業開発の創造的マーケティング―開発情報探索のマネジメント』の共著者でもあります。専業プランナーのみなさん、プランナーを目指す学生さん、多くのマーケターのみなさんの参考になれば幸いです。

【聞き手:株式会社シンクジャム代表|国本智映】

その場その場で最適解を選んで今がある

どのような経緯で、現在大手製薬メーカーのマーケティング職になったんですか?

外資系消費財メーカー数社で研究や経営企画、マーケティングなどのキャリアを積んできました。とある時に、現職の製薬会社からマーケターポジションに声をかけていただき、元々大学院でヒト疾患の研究をやっていたこともあり、業界的にも門外漢ではないと思ったので、お役に立てるのではと思いお引き受けしました。

「どうしてもここが」っていうんじゃなかったってことですね。

たまたま転職検討タイミングが合致したんです。前職で治安のよろしくない海外地域への転勤の話が出て、赴任予定でしたが、子供が小さかったこともあり単身赴任予定でした。子供の成長を見たかったので迷っていた時、人づてで現職の機会をいただきました。調べてみると外資出身者が多いこと、割りと好きな事業再生系の話だったこと、やりたい仕事が出来そうだったことなど、社内環境が良さそうだったのでお世話になることにしました。

時間を効率的に使い生産性を高める

外資系マーケティング会社と日本メーカーの違いは何だと思われますか?

総論を語るには経験も理解も足りていませんが、社外日系業者さんの印象として、意思決定のプロセスの違い、その違いから意思決定速度が違うな、と思います。例えばメールにおいて、前職では長文は時間泥棒という暗黙知があったので、スクロールしなくても読める分量で納める、その為に言いたいことを端的に言う、という文化があったように思います。短くまとめるには結論を先に、アクションポイントは箇条書きといったフォーマットにするとまとまるので、その原則に従って文章を作るといった感じです。そうすればメールは画面内に収まり、1分程度で読めます。「お疲れさまです」「よろしくお願いします」などの定型文はスペースを取るので場合によっては優先順位が低くなります。英語の場合、冒頭締めの定型文はそもそもHelloとThanks and Regardsと短いので楽です。前職ではこのような挨拶を中心とした定型文が無いからと言って怒る人はいません。

「言いたいことを端的に」って話ですね。

そうですね。例えば会議後の議事録のケースですが、複雑系の情報伝達において、必要な情報は議論された結果とアクションだけです。どんな意見が出たのか、だれが何を言ったのかといった情報は究極的には不要です。結果とアクションを中心とした端的な議事録、当時はミニッツと呼んでましたが、メールで全員に伝達し、参加者全員でメール上で手直しし、その日中に最終化します。全員で手直ししているので当事者意識もあるし、記憶がフレッシュなので内容も正確です。よくある会議議事録だと、決裁者がハンコを打って最終化するので100%正しいものが出来上がると思いますが、時間がかかるので細かい箇所は忘れている。参加者の当事者意識も受け身にならざるを得ない。

多分そういうことが、日本の生産性の低さにつながっているのでしょうね。

会議ミニッツのスピード一つで生産性すべては語れませんが、少なくとも早く意思決定できる案件は速い方がいいと思います。別視点で、コロナでオンライン会議が市民権を得たのは生産性を上げたのではないでしょうか?私は新卒時から仕事相手が海外だったので、20年前からオンライン会議がデフォルトでした。当時のビデオ会議は仰々しく、また1時間10万くらいかかっていたので主に電話でしたが、電話だけでも人間関係を築きながら仕事出来てました。いまはTeamsで家にいながら顔出し会議できますので楽になったものです。技術革新を背景に、コロナで意識が変わり、オンライン・オフラインを選択できるようになったのは移動効率性の観点でいい時代になったと思います。反面、コロナ前は年50回ほど飛行機に乗って出張していたので、少し寂しい感じはしますけど。

その企画、「1映え、おいくら」ですか?

「代理店のマーケターは、ゴールに対しての寄与率っていうところまで見てないと、一流のサプライヤーとは言えないですね」

事業会社のマーケターとコンサル会社や広告代理店などのマーケターの役割や違いは何だと思いますか?

売上と利益の事業構造を意識して企画提案してくれているか否かです。物を買っていただくには認知から始まる例のジャーニーがありますので、「バズります」「映えます」っていう提案をまれに受けますが、ジャーニーの一部に過ぎません。全コストから想定される1映えがいくらか、は計算できます。その結果、100映え取れたとして何映えの人が購入してくれるか、結果利益はどうなのか?の文脈で提案してくれると決めやすいですよね。IMCプランなら額も大きく、各メディアが相互作用しながら認知や興味喚起をすると思うので、その構造を論理的に解き明かし、結果として何個売れたら相殺される、といった事業に即した提案を頂けると、こちらも笑顔で決済できます。

映えを「1いいね!」というふうにすれば、計算はできそうですが…

100いいね=100購入ではないので、いいね数はマーケティング指標にはなりえるけど事業指標としては参考値に過ぎません。認知から始まる購入までのジャー二ーの間に、いろんな中間要素がありますが、それが最終的に購入につながらなければマーケティングは意味がない。売り上げに関与する要素を見つつ、数値シミュレーション計算に必要な寄与率まで見ないといけない。メーカーマーケターは売上目標に対しマーケティング費用を算出し、社内決裁を取っているので、すべての指標は購入です。

ROIにつながる説得性のある数値的な裏付けを外部に求めてますよ、ということですね。

メーカーのマーケターは、売上が達成できなければ評価は下がりますので、その提案のROIやROASを見ながら、売り上げに本当に貢献するのか、が採用判断基準です。一方、メーカ側もサプライヤーが持ってきてくれる考え抜かれた新提案の目利き力を鍛える必要はあると思います。例えば、「日本ではDXが進まない、なぜならメーカーの決裁者がDXの何たるかを知らないから!」みたいなことが言われますが、否定はできないかもしれません。受け側も勉強しないと、サプライヤーの提案を理解できないです。メーカーは物を知らないかもしれないという前提で、説明は丁寧にしていただいた方がお互い理解が早まると思います。

Consumer is Boss

マーケットインか、プロダクトアウトか。どちらが重要だと思いますか?

私は製品提供側なのでプロダクトアウトが重要と思います。購入者はそのプロダクトが唄うベネフィットを信じて、期待して購入して頂けるので、メーカーとして謳うベネフィットを約束することに設計上の力点を置いてます。その意味で市場分析や消費者テストにはお金をかけるし、その数値は精査してます。新卒で入った会社では「Consumer is Boss」が社是でした。

「Consumer is Boss」って、すごく強い言葉ですね。

元々研究者で化学式と戯れてきた生活を送っていたので、入社早々コンシューマーに従え、と言われどうすればいいのか戸惑ったのを覚えています。でも冷静に考えると、消費者ニーズを真に理解しないと売れる製品は開発できないので、やはりステークホルダーは消費者であるべき、というのは当然です。消費者が求める製品を作り、ベネフィットを体感して喜んでいただく事で事業が成り立っています。体感してもらう仕掛けや方法論は社外秘なので語れませんが、この需給関係を成立させれば売れる製品の出来上がりです。売れてくると競合がMe Too品を出してきますが、カテゴリーも大きくなる事で好循環が生まれ、最初に出した製品が先行者利益を取るので、競合品はむしろ歓迎してました。

創造的マーケティングの思考方法|前田英人さんインタビュー(2)に続く

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