「ネットがあるのに、なんでわざわざ読書をする必要があるのか?」という疑問に対して、岡田斗司夫さんがYouTubeで「ネットは散歩で読書は、ジムで行う脳の筋トレである」ということを話されていて、これは一番しっくりくる考え方だと思いました。さまざまな情報の収集は有料・無料の情報を問わずネットで行うことができるので、わざわざ本を購入する必要はありません。では、嗜好品としての文芸書や写真集、趣味の実用書などを除き、本を買って読むのはどんな時でしょう?
概要や概況をつかみたいから
これまで経験したことのない業種や施策の企画を求められている場合などは、まずその業界や施策の体系を知っておく必要があります。しかし、ネットにおける無料情報は(自社商品の提供が優先するなどして)利害関係が働き、全体像を理解するのが難しいことがあります。さらに自然検索集客のための薄っぺらいメディア記事などがたくさんあり、いちいち精査していたら時間がありません。よって、ある程度の固まった情報を探すのは時間がかかりますので、Amazonなどで入門書を探して数冊斜め読みをし、概況をつかみます。
まず、入門書を複数の系統(例えば学者、現場担当者、専門家‥など)の著者のものから選び、今回のテーマに近しい内容をより深堀した専門書も買います。たとえば、コーポレートブランドについて知りたい場合は‥
- 最近のブランド戦略の概論
- 商品ブランドでなく企業ブランドについて言及しているもの
- テーマがWebサイトなら、Webブランディングや広報(PR)DXに関するもの
‥などをざっくりと読んでおきます。あとで効率的に読み返すために気になるところは付箋を。もしくは、読みながらポイントをホワイトボードやGoodNoteにメモしていきます。ポイントをつかんだら、より知りたいことはネットで検索。こうすることで、検索するワードもより的確なものになるはずです。
知らないキーワードを理解したいから
新しい技術の概要、急にバズりはじめたワードなどの理解、人間の認知や心理に関する情報、社会学的・経済学的な事情の捉え方‥など、深く知る価値があるかどうかの検証も含めて、「必要かな?」と思ったものは、とりあえず買っておきます。知識を手に入れるのに、躊躇しているヒマはありません。それにより「積読状態の本」「リサイクル行きの本」なども結構でてしまうかもしれませんが、いざというときに開くとちょうど知りたかったことも見つかるので、決して無駄ではありません。(自分の懐を痛めて失敗することで、買い方も身につくはずです。)
定点的に関心事を観測しておきたいから
自分で「ある程度、知っている」というテーマのものも買います。これは、最近他の人がどんな風にその概念を解釈しているかを知ることが大事だからです。例えば「デジタルマーケティング」というマジックワード(なんとでも解釈できるような言葉)は、書く人の視点や出版時によってまとめ方が異なります。
自分が漫然と「デジタルマーケティングはこうだ!」と思っていても、世の中(クライアントやパートナーなど)は違った解釈をしていることもあり、そのギャップはしっかり把握して調整していく必要があります。つまり、常に自分をアップデートするために購入しているわけです。
考える力をつけたいから(◎最重要)
最も重要なことだと思うのが、「考える力をつけるため」です。これが、最初に書いた岡田斗司夫さんの「脳を鍛えるジム」の話になります。本を読むというのは、単に情報を得るというためではなく、考察力・表彰力・仮説力を身につけたり、向上させたりするために必要だと思います。
それには、商業出版や企業出版で出されている実用書・ビジネス書などではなく、社会学や哲学、文学、心理学、経済学、政治学‥などの分野の本です。しかも、大学の先生による自身の箔付けや授業の教科書にする本ではなく、出版社の編集者がついた本です。簡単に言えば、面白いテーマだけど、やや難解かも‥というようなものです。
プランナーの仕事の本質は、具象と抽象を行き来しながら、新しいものを見つけていくことなので、そのトレーニングを行うのはそういった本との格闘にしかないように思います。佐渡島康平さんの『観察力の鍛え方』という本のあとがきに、私が言いたかったことがわかりやすく表現された文章があります。
思想家と呼ばれる人たちの文章を読むと、本の中で言葉の定義がしっかりとされている。その定義を、読み手が自分の知識で十分に理解できるようになったときには「なんと精密で精緻な文章で書かれているのだろう!」と感動することさえある。だが、その概念に一定の時間接して、閾値へと到達していないときには、「とにかく読みづらい」「読み進めるのが苦しい文章だ」と感じてしまう。思想家の言葉は、彼らの世界観の中では、精緻に定義されているのだが、その定義が現実社会と接続していなくて理解しづらい。思想家の言葉は、デザイナーの力を借りていない、エンジニアだけが作ったプロダクトのような武骨さ、近寄り難さがある。
言葉の定義を理解しながら、エンジニアだけでつくった武骨な言葉を読み解いて「自分の生活に当てはめて考えていくこと」(◎重要)が、抽象と具象の行き来の地道なトレーニングになります。ジムで行う筋トレに例えると、BIG3(ベンチプレス・スクワット・デッドリフト)のようなものですね。これを10代~20代前半(遅くとも大人脳として固まってしまう28歳までに)やっている人は、そのあとの成長がグンと見込めると思います。学生さんから「早いうちから、インターンをしてプランニングの仕事を学びたい」という人がいますが、「そんなことをするよりいましかできない読書をしてください」とアドバイスするのはこういった理由でもあります。