レトロブーム

Retro electronics set. Nostalgic collectibles from the past 1980s - 1990s. objects isolated on retro color palette with clipping path.

Z世代が注目するレトロ

過去に流行した製品や服装などのレトロなものに、2020年ごろからZ世代(主に1996年から2015年にかけて生まれた世代)が注目しています。このレトロブームは、大きく3つに分類できます。

1|アナログ感を求める「昭和レトロブーム」

昭和レトロとは、昭和の古き良きアナログ感を求める風潮のこと。具体的には「レコード」「純喫茶」「メロンソーダ」などのブームが挙げられます。

昭和の街並みを再現し、売り上げアップ

西武園ゆうえんちは、2021年5月のパークリニューアルにあたり、「昭和の商店街」を再現。オープン前から、幅広い世代の間で話題となりました。

西武園ゆうえんちの担当者は、リニューアルにあたり売上につながる強いコンセプトが必要だと考え、人との絆やつながりが濃かった「昭和」という時代をテーマに設定。リニューアルに伴い、客層が大きく若返り、来場者の半数以上をZ世代が占める日もあるとのこと。実際に、Z世代の来場者は商店街を撮った写真をSNSに投稿したり、レトロスポットとして紹介したり、昭和の街並みを“映えるフォーマット”として活用し、楽しんでいるようです。

商店街では昭和のお祭りのようなショーも開催
https://www.seibu-leisure.co.jp/amusementpark/arcade/index.html

オープン後の約2か月間は、リニューアル前(2019年)の約13倍のチケットを売上げ、好調なスタートとなりました。

2|ギャルマインドを楽しむ「平成レトロブーム」

平成レトロとは、2000年代のファッションやギャルマインドを楽しむ風潮のこと。具体的には、「ルーズソックス」「ギャル」「たまごっち」のブームが挙げられます。

ギャル文化を模倣し、非日常体験

いま、女子高生の間で「ルーズソックス」や「ギャルピース」などのギャルブームが再来しています。彼女たちはこれらの装いを日常的に行うのではなく、文化祭などの非日常を味わうためのツールとして活用。その様子をSNSにアップして楽しんでいます。

ディズニーシーにルーズソックスを履いていくZ世代
(https://www.businessinsider.jp/post-251417)

ギャルブーム再来の理由は、派手な装いに新鮮さを感じているだけではありません。ギャル特有のノリの良さや明るさ、自分の意見をはっきり言うなどのいわゆる「ギャルマインド」に対して憧れを持ち、自由に楽しく過ごしたいという気持ちの表れにもなっています。

かつて流行したおもちゃが「映え」の道具に

平成初期に大人気だったシルバニアファミリーが、大学生や、20代前半の女性の間で再ブーム。きれいな風景を背景に人形を撮影したりなど、SNSで映えるための小道具として愛用され、Instagramでは約61万件のハッシュタグがついています。また、シルバニアファミリーの公式Instagramでは、商品PR写真だけでなく季節や時流にあった投稿を実施し、ファンから多くの反響を獲得しています。

北京オリンピック開催時に投稿された人形がフィギュアスケートをする姿
(シルバニアファミリー公式Instagramより)

3|新旧取り混ぜた「ニュートロブーム」

ニュートロとは、新しさ(New)とレトロ(Retro)を組み合わせた造語。レトロが持つノスタルジックな要素を現代の感覚で再構築して楽しむもので、具体的には「ネオ居酒屋」「昔はやった歌謡曲のリメイク」などが挙げられます。

ニュートロテイストでZ世代の利用が増加

カフェ&バー「プロント」は、2021年4月から夜の新業態「キッサカバ(喫茶+酒場)」をスタート。「タコさんウインナー」「ハムカツ」「クリームソーダ」「バナナミルク」などの懐かしさを感じるメニューの提供や、ポップな書体とイラストで表現した大きなのれんなど、レトロな雰囲気を感じられる要素を取り入れました。

従来の営業形態に対してプロントは、店舗へ行く明確な理由がなかったと分析。利用目的をはっきりさせ求心力を高めるために「昼はカフェ、夜はサカバ」というリブランディングを行いました。

店内にはネオンが灯りニュートロな雰囲気を楽しめる
https://saitama-omiya-urawa.blog.jp/1079641382

これまでは40~60代の男性がコア層でしたが、リニューアルにより20~30代の利用客が増加。若い世代からも「以前より店に入りやすくなった」との声が挙がっています。また、1人での利用が多いカフェの営業時間帯に比べ、「キッサカバ」は複数人での利用が多く、お酒を飲む人も飲まない人も同じテーブルで過ごすという光景が見られるようになりました。

Z世代にレトロが刺さる理由

なぜさまざまなレトロ要素やテイストがZ世代に好まれているのでしょうか。その理由として「SNSとの親和性の高さ」「ブームが長期化する仕組み」という2つの背景があると考えられます。

SNSと相性が良いレトロ

Z世代が日常的に使用するInstagramでは、常に写真映えが求められます。その中でレトロというフォーマットは、ロジカルには説明できないが“なんかいい”と感じる「エモい対象」としてあげられており、写真映えしやすいと認識されています。また、「写ルンです」の使用やアプリの加工などによって簡単に再現が可能なので、レトロな写真を撮りInstagramにアップするというブームが起きたと考えられます。

さらに、Z世代はSNSを自己表現の1つとして利用しており、「こう見られたい自分の世界」を他者に公開しているといわれています。その中で、レトロに着目することで、現代には溢れていないレトロな要素に再注目する「人とは違う自分ならではのセンス」を表現したいのではないかという説があります。

実際にInstagramでは「#トレンド」とついた投稿が227万件なのに対し、「#レトロ」とついた投稿は323万件もあります。その他に、「#レトロコーデ」「#レトロ喫茶」などレトロに関するハッシュタグが数多く存在しています。

連鎖的にコンテンツが誕生することで、ブームが長期化

Z世代が情報収集のために利用するSNS上には、デジタルアーカイブが多数残っています。ソーシャルネイティブといわれるZ世代は、自分の欲しい情報を探し出すスキルに長けているため、レトロといわれる古い情報も短時間で探し出せると考えられます。

また、YouTubeやInstagramにはユーザーが見たコンテンツの、関連情報を自動で表示するレコメンド機能があります。レトロに関するコンテンツを調べた場合、この機能によって関連コンテンツも見つけ出しやすくなり、知識や興味の幅を広げるきっかけになっています。

そして、面白いと思ったことや感動の共有を大切にしているZ世代は、新たに知ったレトロに関するコンテンツをSNSで発信。このように自分が得た情報を発信するという流れが定着していることで、新たに興味を持つ層が誕生し続けていると考えられます。

興味の幅が広がりやすい仕組みがあることと、新たに得た情報を発信する風潮により、Z世代の間でレトロというフォーマットが飽きられることなく、ブームが長期化しているのではないでしょうか。

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