情報銀行

2018年10月に総務省と日本IT団体連盟が開いた「情報銀行認定」に関する説明会には、想定の4倍超えとなる金融、情報通信などさまざまな事業者200社が集まりました。既に富士通やNTTデータを始めとする各社が実証実験を行っていることを発表し、多くの企業が情報銀行事業への参入を検討しています。

情報銀行とは、消費者と事業者を仲介する「情報委託サービス」

総務省によると、「情報銀行」の機能は2つあります。

●個人からの委任を受けて、当該個人に関する個人情報を含むデータを管理するとともに、データ を第三者(データを利活用する事業者)に提供することであり、個人は直接的又は間接的な便益を受け取る。

●本人の同意は、使いやすいユーザインタフェースを用いて、情報銀行から提案された第三者提供の可否を個別に判断する、又は、情報銀行から事前に示された第三者提供の条件を個別に/包括的に選択する、方法により行う。

出典:『「情報銀行」認定指針の見直しに向けた検討状況について』2019年4月

情報銀行の概要図
情報銀行の概要図
PDS(パーソナル・データ・サービス):個人が自分のデータを保存、管理、配備できるようにするサービス。①利用者は、事業者A、B、Cの利用に関するデータを情報銀行に預ける。②その後、情報銀行を介して、D、Eには情報の提供を拒否し、Fには提供するというように、自分の情報を管理する。③提供を受けたFは、クーポンなど、何らかの対価を利用者に対して還元する。
出典:内閣官房IT総合戦略室『AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ中間とりまとめの概要』2018年7月

情報銀行の狙いは、GAFAの情報独占を防ぐこと

これまでにもCRMのように、事業者が顧客の情報を利用する手法はありましたが、情報銀行がCRMと大きく異なるのは、あくまでも消費者主導という点。現在、GAFAが消費者の情報を独占していることが世界的に問題視されているように、多くの個人情報が、本人の認識していない領域で利用されています。情報銀行は、個人情報を活用する権利を企業から消費者の手に戻そうとする取り組みでもあります。

実は、情報銀行の源流となるサービスは、10年前、米国で存在していましたが、成功することはありませんでした。GoogleやFacebookが広告モデルによって、すでにビジネスを成立させており、有料のサービスでは太刀打ちできなかったのです。

一方日本には、社会的な認定を受けた、個人情報を流通させるための仕組みがありません。しかし、AIの普及により、事業者側はお金を出してでもより多くのデータを必要としています。仮に情報銀行が上手く普及すれば、企業はこれまで把握できなかった個人のさまざまなデータを集約させて分析し、個々人にカスタマイズされたサービスを実現できるようになります。また、国内で情報銀行のサービスを始めることにより、GAFAによる個人情報の独占を防ぐという目的もあります。こうした現在の状況が、情報銀行の推進を後押ししているのです。

多様な実証実験が進む

各社が乗り出そうとしているサービスの内容は、具体的にどのようなものなのでしょうか?既に多くの企業が情報銀行事業に乗り出すと発表しているものの、多くのサービスはまだ開始されていない状況です。本格的にサービスが開始されるのは、2019年の後半以降と言われています。

電通テック子会社のマイデータ・インテリジェンスが運営する「MEY(ミー)」は、消費者がサービスに一度会員登録をすると、企業からキャンペーン参加のオファーが来る仕組み。一度登録すれば、同一のIDを用いて、MEYのプラットフォーム上にあるキャンペーンに情報を入力せずに参加できます。キャンペーン毎に個人情報を入力する手間がありません。運営するマイデータ・インテリジェンスは、キャンペーンのプラットフォームの利用料、および利用者から許諾を得たパーソナルデータの利用料を企業から徴収し、情報銀行の収益にします。

消費者はどの企業に情報を開示するか選択できるのに加え、過去に自分の情報がどのような目的で使われたのかを確認できます。企業側も、個人情報の管理を委託することで情報漏洩のリスクをなくすことができ、今までリスク回避のため破棄してきたデータを有効に活用できます。

MEYのサービス概要図
MEYのサービス概要図
出典:株式会社マイデータ・インテリジェンス『株式会社マイデータ・インテリジェンス 事業のご紹介』2019年5月29日時点

(2)生活のデータを提供すれば、地元の小売店からサービスを受けられる(大日本印刷)

多くの企業が消費者に還元する対価によって情報銀行の利用者拡大をめざす一方で、大日本印刷は中部電力と提携し、「地域内の消費活性化や地域課題の解決」に寄与する情報銀行の実証実験を愛知県豊田市で行いました。

内容は…

①豊田市在住の生活者が、アンケートで登録したパーソナルデータに加え、自宅の電力使用量や体組成計で測定するセンサーデータなどを「地域型情報銀行」に預託し、事業者へのデータ提供範囲を選択します。

②地元のスーパーや商業施設は、利用しやすく加工されたデータを受け取り、

③商品開発や配送サービスに活用する。

地域にフォーカスすることで、消費者がより実用的なサービスを受けられるのがポイントです。

大日本印刷と中部電力による実証実験概要図
大日本印刷と中部電力による実証実験概要図
出典:大日本印刷(株)『地域内の情報流通で生活支援を行う「地域型情報銀行」を構築』2018年11月

3)算出された「信用スコア」を自身の信頼性の担保にできる(J.Score)

みずほ銀行とソフトバンクが共同出資するJ.Scoreは、業務提携によりみずほ銀行が持つ金融取引データや、ソフトバンクやワイモバイルの通信料金の支払いデータ、ヤフーが持つECにおける購買データなどを有しています。ユーザーが生年月日、職業、住居などの質問に答えると、AIが上記のデータに基づいて個人の信用度をスコア化し、数値に応じて6段階にランクをつけます。「AIスコア・リワード」ではスコアに応じた特典を受けられ、「AIスコア・レンディング」では個人融資を受けることもできます。

ユーザーが個人情報の提供に応じて特典を得られるという点では情報銀行と同じですが、J.Scoreは、提携企業に開示するユーザーの情報をスコア、もしくはランクのみに留めています。提携企業は、スコアに応じて振り分けられたスコアランクの中から、「最高ランクのダイヤモンドのユーザー」など、必要な顧客層と一致するランクを指定。情報の提供を受けた企業は、ランクに応じた特典をユーザーに提示し、自社サービスの利用を促すという仕組みです。

J.Scoreのユーザーマイページ画面
J.Scoreのユーザーマイページ画面
内容を充実させるほどスコアアップにつながる。

(4)情報を提供した中小個人商店は、無料でサービスを利用できる(NIPPON Social Bank)

「Amazon Pay」の実店舗導入を手掛けることで知られるNIPPON Platformは、2019年4月にNIPPON Social Bankを設立しました。同社は個人ではなく小規模店舗を対象にデータを収集し、活用するビジネスモデルを掲げています。

まず、小規模店舗を対象に、同社が開発したタブレット端末を無償で配布し、端末に搭載したQRコード決済機能を契約して利用してもらいます。タブレットを通じて、「いつ、どこで、いくらの商品が購入されたのか」という店舗の情報をまとめて収集し、活用につなげるという仕組みです。タブレット以外にも、店舗にカメラを設置し、AIで来店客を識別・分析するサービス「おみせアナリティクス」も用意。店舗に還元する対価はサービスの無償化、地域通貨やクーポンなどにする予定です。

NIPPON Social Bank
出典:NIPPON Social Bank株式会社

普及しなければ、情報銀行はGAFAに淘汰される?

2019年7月現在の時点で、各社の情報銀行サービスはまだ本格的に開始していませんが、予測できる課題は次の3点です。

(1)サービスが開始されるまでに、データの質を高めることができるか

マイデータ・インテリジェンスは、認定取得に先がけて2018年11月からキャンペーンプラットフォーム「MEY ベネフィット」を開始し、データの重層化をはかります。しかし、GAFAなどのメガプラットフォーマーに比べると情報数が圧倒的に不足しています。情報銀行のサービスが本格的に開始されたときに充分な情報数がないと、一気に淘汰されるでしょう。情報数を集めるには、ユーザーに対していかに魅力的な便益を与えられるかどうかが重要になります。

(2)国の事業認定の有効性を示すことができるか

本稿で信用スコア事業を情報銀行と並べて紹介したのは、両者のサービスに類似点が多いためです。J.Scoreやヤフーなどは情報銀行の認定取得方針を示していませんが、既に大量の個人データを収集しています。提供するデータに制限があっても、提携企業にとって付加価値の高い情報を提供できるのであれば、情報銀行サービス群と戦うことはあり得ます。そうなった場合、情報銀行の認定を取得することに果たしてどれほどの意味があるのか、問われることになるでしょう。

(3)情報リテラシーが低い層に対してアプローチすることができるか

情報リテラシーの低い層が情報銀行を利用しなければ、データが充実しません。また、大日本印刷のような地域型情報銀行においては、比較的情報リテラシーが低いであろう中高年層に対するアプローチが不可欠です。同社は、「生活者に負担をかけないかたちで、日々蓄積されるデータを情報銀行に自動的に提供する仕組みを構築する」としており、操作が容易なUI設計も事業普及の決め手となるでしょう。

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