ネイル業界の現状:ネイルサロンの飽和とセルフネイル需要の高まり
昨今ネイル業界では、ネイルサロンの飽和とセルフネイル需要の高まりにより市場の伸び悩みが起きています。
ネイルサービス市場の移り変わり
爪の装飾(ネイルアート)や手入れなどを行うネイルサービス市場は、2005 年の427.5 億円から 2015 年には 1,655 億円へと急成長しました。その後2016~2019 年の間、ネイルサロン1店舗当たりの売り上げを示すデータをみると、店舗数が 14.2%増加しているのに対して、同期間の売上増加率は 3.6%にとどまっています。
市場の成長が鈍化した背景には、市場の成熟が進んだことで顧客獲得競争が激化し、サービスが低価格化しているという要因が挙げられます。
さらに、一昔前には、「ネイル=店でするもの」という認識がありました。しかし、低価格なセルフネイル用品や、デザイン性・クオリティが向上したネイルシールなどの普及により、現在はセルフネイルを楽しむ人が増えています。
福祉ネイルとは
このような状況の中、ネイル業界では新しい業態のサービスが誕生しています。それが「福祉ネイル」です。福祉ネイルとは、福祉ネイリストが利用者の自宅をはじめ、介護施設や老人ホームなどに出張して、お年寄りや障がいを持つ方にネイルケアを行う仕事です。
2015年に日本保健福祉ネイリスト協会が設立され、2020年には全国で約950人、2022年には1400人が福祉ネイリストとして認定されており、福祉ネイリストは活動の幅を広げています。このことからネイルサービス市場では、ネイルサロンが飽和しているのに対し、福祉ネイルは今まさに発展途中の分野であるということがわかります。
福祉ネイルがこれからますます発展しそうな理由
①認知症のケアとして効果が期待できる
福祉ネイリストが高齢者にネイルを施術する際に行う行為は、認知症ケアの手法であるユマニチュードと類似点が多いと言われています。
ユマニチュードとは認知症の方に用いられるコミュニケーション技法の一つで、穏やかな会話や触れ合い、目線を合わせるという、人間らしさを形にした介護のことです。ネイルを行う際、ネイリストは利用者の手に触れ、コミュニケーションをとりながら施術を進めていきますが、その一連の動作は、ユマニチュードに重なる部分が多くあります。
②認知症患者は増加傾向にある
平成29年度高齢社会白書によると、認知症患者は2012年時点で462万人存在し、2025年には675~730万人、2030年には744~830万人と、年々増加すると予測されています。そのため今後ますます認知症患者へのケアを拡充していく必要があります。
それに対し、介護現場では高齢社会による人材不足が起こっています。このような現状を踏まえると、ネイルにより一人一人の方と向き合うことで認知症ケアの効果が期待できる福祉ネイリストの需要は、高まっていくことが予想されます。
福祉ネイル利用者を増やす際の課題点
今後さらなる需要拡大が予想される福祉ネイルですが、事業者側の課題として2つのことが挙げられます。
福祉ネイルの認知度を上げる
福祉ネイルでは、介護施設などの施設側がネイリストを呼ぶ形態が主流です。そのため、施設に福祉ネイルというサービスがあることを知ってもらい、プログラムとして福祉ネイルを導入する機会を増やす必要があります。福祉ネイリストや協会が施設に営業をかけるなどして、認知度を上げる活動が必要になるでしょう。
認知症などに対する知識の習得
現在、日本保健福祉ネイリスト協会の認定校により、福祉ネイリストになるための教育が提供されています。講習は、3時間×7日間の講習と25時間程度の実質講習によって構成されており、プログラムには高齢者の特性や、障がい者福祉に関する講習が含まれています。
しかし、それだけでは最大限の福祉的効果は期待できない可能性があります。福祉ネイリストには介護についての専門知識も教え、期待されている認知症ケアの側面を強化することも必要ではないでしょうか。
また、介護施設には免疫が落ちている入居者がいます。そのため、福祉ネイリストが介護施設に訪問する際、通常のネイルサロンに比べ感染症対策に注意を払わないといけません。したがって、衛生面での教育も不可欠だといえるでしょう。今後の需要拡大を見据え、今一度教育内容の見直しと拡充が期待されます。