“ひとり”時間を大切にする「居独」という新たな過ごし方

近年、国内の“ひとり”好き意識が高まっているのをご存じでしょうか。例えば、クラブツーリズム株式会社が提供する「ひとり旅」の売れ行きが2023年に過去最高を記録し、最近では“ひとり”の活動を楽しむ「ソロ活」も話題になっています。

“ひとり”好きの傾向はデータからも分かっており、1993年と2023年における“ひとり”意識について調査した「ひとり意識・行動調査1993/2023」(1993年調査:1993年1月8日~1月29日実施、2023年調査:2023年6月16日~8月2日実施、博報堂生活総合研究所)によると、「ひとりでいる方が好きだ」と回答した人が56.3%と過半数となり、1993年と比較して約10%以上増えたといいます。

このような“ひとり”志向の高まりが見える中、「居独(きょどく)」という新しい行動トレンドに注目が集まっています。

ニュートラルな“ひとり”意識「居独」

居独は、株式会社電通の消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN」(以下DDD)によって提唱された言葉であり、その定義は以下になります。

「居独」とは、日常にひとりの時間や空間を作って、好きなことに没頭するなど、自分と向き合うことでリセットとリラックスを求める“デザイアブルライフ”を意味します。

「ソロ活」のように「活動」と呼ぶほどではない、“瞑想”や“散歩”なども含まれ、「ひとり」を楽しむこと全般を指す言葉です。ニュートラルに「ひとりで“いる”」ことを表す意図により、「居」の文字を入れています。
引用:新たな行動トレンド「居独(きょどく)」を楽しむ人が増加中!https://dentsu-ho.com/articles/8478

今では“ひとり”でいることは特別なことではなく、普通の状態だという捉えられ方が一般的になり始めています。また、DDDの調査(参照元:心が動く消費調査、2022年11月2日~7日実施、株式会社電通によれば、「他人の評価とは関係なく、自分が良いと思ったことに没頭することが楽しい」という質問に対して約83.2%の人が「そう思う」と回答しており、自分の価値観を大事にしたいという欲求も居独意識の芽生えに一役買っているといえるでしょう。

60~70代は「つかず離れず婚」への意識が高まっていることが考えられる
https://dentsu-ho.com/articles/8478

居独意識には、生活スタイルの変化も関わっていると考えられます。主に以下のような例が要因として考えられます。

  • コロナ禍
    ・ソーシャルディスタンスによる“ひとり”時間の経験。
    ・動画配信プラットフォームなどの“ひとり”でも楽しめるコンテンツの増加。
  • 働き方の多様化
    ・職場一体のスタイルから個人の働き方(主にリモートワーク)に変化してきている。
  • 接続過剰な環境
    ・SNS普及による「常につながっている」という感覚から脱却したいという心理的傾向。

他の人との接触を控えざるを得ないコロナ禍で、個人の時間が大幅に増え、各々が“ひとり”時間に慣れていったことにより “ひとり”をよりスタンダードな状態として捉えられるようになってきたといえます。

“ひとり”意識によって生まれる「居独ニーズ」

以下では、居独意識から生まれるニーズについて実際の取り組み事例を基に解説していきます。

『YOINED』

UCC上島珈琲株式会社が数量限定で発売した“食べるコーヒー”『YOINED』。UCCが独自に行った調査によって “ひとり”時間を大切にしたいと思っている人が多くいることが分かり、“ひとり”時間に何かに浸ること(同社はこれを「ヒタ活」と呼んでいる)をニーズと捉え、これを受けて“コーヒーの香りの余韻に浸る”をコンセプトに『YOINED』が誕生しました。本商品は、販売開始前からメディアで注目され、自社ECサイトでの2023年販売目標を5日間で達成、予約販売を承るたびに即完売になる人気商品となっています。

映画鑑賞や読書など、“ひとり”時間でゆったりとリラックス感が得られる活動が人気に。
https://www.ucc.co.jp/company/news/pdf/20231026b.pdf
『YOINED』は極限までコーヒーの香りを閉じ込める日本初の独自製法によって製造されている。
https://www.ucc.co.jp/yoined/

『YOINED』の例でも触れたように、多くの人々の中で“ひとり”時間に何かに浸る、集中するという意識が高まっています。誰かに自分の好きなことや興味のあることを共有するのではなく、自分だけの空間で好きなことに集中する、つまり「没入・没頭体験」が居独ニーズといえそうです。因みに、博報堂の調査参照元:「ひとり意識・行動調査1993/2023」、1993年調査:1993年1月8日~1月29日実施、2023年調査:2023年6月16日~8月2日実施、博報堂生活総合研究所によると、「ひとりで没頭できる趣味を持っている」人が74.8%、30年前と比較して約17%弱増えているという結果が出ています。

IPSA『素肌茶屋』

資生堂が展開するカウンセリング化粧品ブランド「IPSA」が表参道にオープンした期間限定ショップ『素肌茶屋』。こちらの店舗では肌測定の結果から一人ひとりに最適な化粧水を提案する「ME(エム・イー)」に加え、16種類から個人の肌状態に合わせて選ばれた日本茶と和菓子が提供されます。
本イベントでは、“素肌と心に向き合う”というコンセプトが掲げられており、化粧水×日本茶という自分だけの組み合わせを楽しむことができると同時に、自身の肌を労わりながら心を整える体験ができます。

『素肌茶屋』で味わえる日本茶と和菓子は専門店によって監修されている。
https://www.ipsa.co.jp/chaya/chaya-top.html?srsltid=AfmBOop33pd2KGlNN-
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『素肌茶屋』の例と関係の深い居独ニーズとして、「パーソナルな体験」への欲求が挙げられます。何かの型にはめられることなく、自分特有のカスタマイズや選択ができる体験が“ひとり”志向の意識に響くといえるでしょう。

上記の居独ニーズの他にも、定義で述べられている「“ひとり”時間における自分自身のリセット・リラックス」体験や主にeラーニングなどのオンライン学習プラットフォームを活用した「スキルアップ・自己研鑽」への欲求も居独ニーズとして捉えられています。

“ソロ活”と“居独”、それぞれのニュアンスについて考察

DDDの定義にもあるように、居独はそれ以前にトレンドとなっているソロ活と比較して“ひとり”という印象の捉え方に違いがあるといえます。ソロ活は“ひとり”に対してより肯定的な捉え方をしており、居独は“ひとり”をニュートラルに捉えている点が特徴的です。

一方で、類似している部分もあります。どちらも “ひとり”時間を大切にしたいと考えられている点が共通していますし、また、幅広い年代層や性別問わず支持される傾向も同じです。

それでは、ソロ活と居独はどのような違いや特徴によって使い分けられることが考えられるのでしょうか?
両者が生み出しているニュアンスの違いと関係性について、分類図にまとめてみました。

ソロ活と居独がそれぞれ持つ興味・関心への意識の向きに着目して図式化。

まず、ソロ活は意識が自分の外側に向けられており、「ひとり旅」のような今まで自分が行ったことのない場所に訪れることや、「ソロキャンプ」のようなチャレンジ体験によって“ひとり”時間をよりアクティブかつ発散的に過ごす取り組みがされているといえるでしょう。

一方で、居独は活動への意識が自分の内面に向けられており、ソロ活のように“ひとり”時間をアクティブに過ごすというよりは、自身が落ち着ける空間・時間を作り、「瞑想」や「自宅ヨガ」、「散歩」といった安定的かつ内省的に過ごせる取り組みが好まれる傾向があるでしょう。

また、図で示したようにソロ活と居独には明確な線引きは存在せず、グラデーションのようなつながりを持った関係性であると考えられます。自身のもつ“ひとり”意識の状態によって取り組みたいと思う活動の種類が変化していくことが予想され、その時に何を目的として“ひとり”時間を活用するのかという違いにより、ソロ活と居独が使い分けられているといえるでしょう。

ソロ活や居独への意識が高まりを見せる中、これからも“ひとり”好き意識に関するトピックに注目が寄せられます。