谷敏行さん『アマゾン・メカニズム/イノベーション量産の方程式』日経BP(2021)から、受託型専業プランナーの仕事に活かせそうなポイントをメモしてみました。サブタイトルのイノベーション量産の方程式は下記のようです。
ベンチャー起業家の環境×大企業のスケール-大企業の落とし穴=最高のイノベーション創出環境
基本的には、イノベーションを生み出すルールがあるからだというのが筆者の主張であり、その主張を裏付けるさまざまな事例が掲載されています。
シリアルアントレプレナーの特徴
シリアルアントレプレナー(複数回にわたり、創業した企業を上場・売却して、成功させている人)の特徴は、
- 1|未来の「製品・サービス」と「ニーズ」の交点を見極めること
―ただし、10年後ではなく最も難しい3~5年後であることに注意。ベンチャーの成功要因の1位はタイミングである。
- 2|優秀な人材を惹きつけること
―優秀な人材が求めるのは「異次元の自己実現の可能性」を感じさせることであり、上記の「まだ存在しない市場を見る力」が人材を集める力になる。
の2点。
日本企業はアマゾンから学べる
アマゾンTOPのベソスさんは、上記に加えて「組織としてイノベーションを起こす仕組み」を作ってきたことが違う。日本企業は、イノベーション創出の仕組みのプロセスまでを仕組みかしているアマゾンを真似すれば成果が上がる。
PR/FAQ フォーマットがある
アマゾンの企画書は「PR/FAQ」フォーマットを使う。あくまでもマーケットイン(顧客視点)の思考で、製品が完成する前にプレスリリースとよくある質問と回答を用意するのだ。
- どのようなサービス・製品が市場導入されるのか?
- 使用する人にとってどんな利点があるのか?
- 実際に使ってみた人のフィードバックはどうか?
しばらくこのワードが流行る気がしますが、内容はこれまでの企画書と同じだと思います。しっかりとターゲット顧客とその課題、それに対する製品やサービスのメリット、与えるベネフィット、その価値を書くというのは、一般的な企画書では当たり前です。それを、記者発表の資料に仕立て上げるということによって、それが「社内」ではなく「社外」の目、つまり顧客の目から見て、どう映るのかを客観視できるというメリットがあります。カタログとかWebサイトなどにせず、テキストだけで済むPR/FAQとしたところは効率的ですし、経営層もジャッジしやすいと思います。
PR/FAQのチェックポイント
- 自分たちがいま保有している技術や数値予測できる短期的利益にこだわっていないか?
- 他社ではなくアマゾンがやることで、顧客により大きな価値を提供できるのか?
- その新サービスや製品で満たせる顧客ニーズは充分に大きいか?
- 短期的ではなく、長期的に必要なものか?
- 顧客が心から欲しいと思うか?
資料はテキストが原則。読む=沈黙から会議は始まる
資料のルール
- 会議資料はワードファイルで、1枚、3枚ないし6枚で、添付可。
- 箇条書きNG、PPTはNG、グラフ・図はNG
- 意見は散文形式で表現すること。
年1回様々な職場の人が集まり、イノベーションサミットが開催される。全員発表の後、似たアイデアを持つ人たちとチームを組み、ディスカッションしてブラッシュアップする。これはさまざまな刺激を与え、新たなイノベーションを起こすきっかけにもなる。優れたアイデアは、PR/FAQに形式にまとめられ、会社として実行するかジャッジへ。実行が決まれば、四半期ごとのゴールが設定され、プロジェクトの規模に応じた経営サポートが受けられる。
ワンウェイ・ドア/ツーウェイ・ドアがある
意思決定できる人にはできるだけリスクをとって前に進んでもらいたいため、その意思決定は「ワンウェイ(行ったら戻れない)か、ツーウェイ(戻ることが可能)なドアか」が提示される。ツーウェイであれば、スピード重視でリスクをとって先に進めるという判断ができる。ワンウェイなら、上層部と議論できる。
イノベーションのジレンマを回避するルールがある
- シングルスレッドリーダーシップにこだわる
-既存事業はさせず、新規事業に特化させて仕事をさせる
- マトリクス組織ではないので、2系統のレポーティングが不要
―無駄な準備や調整に時間を取られない
- 社内カニバリを恐れない
―既存事業と新規事業が重なっても構わない
- インプット(準備、プロセス)とアウトプット(売上や利益)で評価する
―新規事業のための商品ラインアップ数、調達量、Webサイトなどもインプット
- 成長率を重視する
―既存事業の売上の大きさを維持した人よりも、新規事業を成長させた人を重視する。
ここでは、「全員がリーダーになる」というような、よくありがちな内容は記載せず、重要だと思うものをメモしています。アマゾンのリーダーシップ原則(p.100~p.104)や筆者の解釈(p.233-p.251)も、マネジメントルールを模索している人にはうってつけの材料かもしれません。1つ1つはさほど新しいことではありませんが、自分を見つめなおすきっかけになります。
新規事業担当者の孤立を防ぐSチームというサポートがある
- 顧客と会社に大きなインパクトを与えると判断されたPR/FAQは、Sチーム(非公表だが経営層や各部門の責任者26名ほどから構成されるようだ)が、Sチームゴールとして定められる=社内起業家に大企業のスケールが与えられる。
- Sチームメンバーも新規事業経験者
- 経営幹部のために生データを要約する間接部門はない。経営幹部は事業の細部まで理解して判断することが求められるため、生データのスプレッドシートが渡される。
- 数字だけでなく「顧客が本当に求めるもの」が追求される。
